研究課題/領域番号 |
17K14333
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
多田 靖啓 東京大学, 物性研究所, 助教 (20609937)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 磁場 / ディラック電子 / 電子相関 / 量子臨界現象 / サイクロトロン共鳴 / 近藤絶縁体 / スピン液体 |
研究実績の概要 |
当該年度は、前年度より引き続きて、磁場中ディラックフェルミオンの研究の足掛かりとして、磁場中で調べたいモデルを磁場なしの場合について議論した。磁場中でもそのまま使える数値計算コードにより、磁場なしの系を解析しその量子相転移を詳しく調べた。ここで用いた数値解析手法は他の系にも適用可能なものであり、その後の磁場中の系を調べる際の基礎にもなる。また、得られた数値結果を場の理論の結果と比較し、この系における量子相転移の理解を発展させた。この結果は、論文雑誌にて発表した。さらに、上記の結果を土台にして、磁場中の場合についても研究を行った。特に、磁場による量子臨界現象という立場から、magnetic catalysisという現象を議論し、これまでの先行研究などとの違いを明らかにした。
他にも磁場中の系として、近年、絶縁体にもかかわらず量子振動が可能であるとして注目されている近藤絶縁体について、研究を行った。磁場中ではランダウ量子化が起こるが、その量子化構造を解析することができる実験手法としてサイクロトロン共鳴があり、本研究ではその理論的研究を行ったものである。サイクロトロン共鳴は、これまで研究されてきた静的現象である量子振動に対する動的な対応物ということができる。本研究では、このような立場から、近藤絶縁体における特徴的なランダウ準位構造の帰結を明らかにした。
また磁場のない系ではあるが、近年の実験に触発されて、水素結合と電子相関の共存する新しいタイプの系について研究を行った。実験では、このような系でスピン液体状態が実現することが報告されており、本研究ではこの可能性を理論的に議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ディラック系の数値計算結果の解析に大変時間を要した。とくに、有限サイズ効果をどのように扱うべきなのかを明確にしないままに誤ったデータ解釈をしてしまい、その後の修正に時間を要した。一方、近藤絶縁体の研究は、単純なアイデアに基づいてシンプルな計算を行ったものであり、比較的短期間に仕上げることができた。スピン液体の研究については、共同研究者との連絡調整に時間がかかってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題として、まず、ディラック系におけるmagnetic catalysisのさらなる研究を行いたい。本研究は、膨大な先行研究にはない新しい視点からこの現象を研究したものであり、さらなる発展が可能であると考えている。今後、これまでの結果を専門家と議論し、可能であれば共同研究を行うなどして幅を広げていきたい。
近藤絶縁体については、これまで行った研究は非常にシンプルなものであり、現実の実験を理解するためには考えるべき問題が多く残っている。
スピン液体についても同様に、我々が行った研究は非常に理想化したモデル計算であり、現実の物質を理解するためには、より物質に即したモデルを用いる必要がある。今後は、これらのような問題について研究を行っていきた。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に研究代表者及び学生の学会参加を予定していたが、コロナウイルスのパンデミックにより会議自体が取りやめになり、旅費を使用しなかった点が大きな理由としてあげられる。今年度はすでに外国出張も予定されていたが、この会議も延期が決定しており、旅費についての扱いを所属機関などと相談するつもりである。また、自宅勤務のための環境をさらに整えるために、いくつかの機器を購入することを検討している。
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