今年度の方針通り、Sn置換SrIrO3の一枚膜に集中し、ディラック分散の有無の判定を含む詳細なバンド構造とその温度依存(磁気転移温度を横切る際のバンド構造の変化)の測定を行うことを目指した。平成29年度に予備測定として、高エネルギー加速器研究機構において、大気搬送した試料を軟X線ARPESにより観察していたが、今回、波数分解能を向上させるため、同機構までの可搬真空チャンバーを利用した試料の運搬と、紫外線ARPESを行った。軟X線によるXPSによる組成分析の結果、可搬真空チャンバーの使用によって、炭素化合物による表面汚染は前回よりも抑えられていることが分かった。しかし、低エネルギーの光を用いてもARPESの結果、波数分解能の顕著な向上は見られず、詳細なバンド構造の解明には至らなかった。置換によるintrinsicな波数分解能の低下の効果がある可能性がある。検証するには、無置換系から始めて徐々に置換率を大きくしていく必要があると考えられる。 波数空間の数点において温度依存測定を行ったところ、低温ではフェルミ準位にギャップを持つ絶縁体的なスペクトルが得られ、昇温に伴い、ギャップが閉じていくような振る舞いが見られた。これは、磁気秩序の出現に伴いバンド構造がギャップ無しの半金属からギャップ有りの絶縁体になるという予測と整合する振る舞いである。しかし、測定後に試料の状態を目視で確認したところビームの当たっていた部分が変性しており、測定された変化が試料の変性によるものなのか温度依存によるものなのか断定することができなかった。明確にするには、変性を避けるためのビームのスキャンや、温度を再降下させた際のふるまいの検証を行う必要があると考えられる。
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