研究課題/領域番号 |
17K14336
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野村 悠祐 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20793756)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フォノン / 電子格子相互作用 / 機械学習 / 制限ボルツマンマシン / 変分波動関数 |
研究実績の概要 |
本研究の主眼は、新たな手法の開発とその応用により、電子自由度とフォノン自由度の協奏・競合関係について明らかにし、格子自由度がもたらす新たな機能物性の可能性を探ることである。この目標達成のためには、新たな強力な数値計算手法の開発が必要であるが、近年発展が目覚ましい機械学習を使った手法開発をH30年度では主に行った。
具体的には電子と格子が結合したような系のハミルトニアンの一番エネルギーの低い固有状態である基底状態の波動関数を求めるための手法開発を行った。これまでの手法では主に何かしらの物理的直観に基づいた変分波動関数を使用していたが、様々な関数系を柔軟に表現することのできる学習機械を用いると、物理的直観に頼ることなく、これまでよりも精度の高い基底状態計算が可能になることがわかってきている。
本研究では機械学習の分野で使われる関数の中でも、人工ニューラル・ネットワークの一種である制限ボルツマンマシン(Restricted Boltzmann Machine、略してRBM)に着目した。試行波動関数の形としては、まず電子系と格子系が相関を持つような波動関数を予め用意し、さらにそれよりも高度な相関をRBMによって取り組む形を採用した。この変分波動関数を1次元のホルシュタイン模型(代表的な電子と格子が結合した模型)に適用したところ、これまで提案されている変分波動関数よりも精度が大幅に向上することがわかった。精度の高い計算は電子格子結合系の性質の理解には必須であり、この精度向上は電子格子結合系の理解を促進する重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度における計画は機械学習の技術を用いた精度の高い電子格子結合系の基底状態の計算を可能にすることであった。機械学習の分野で用いられる制限ボルツマンマシンを使った変分波動関数を導入することで、これまでにない精度で電子格子結合系のハミルトニアンの解析が可能になることがわかった。これは今後、電子格子結合系の理解を深める上で重要な成果である。研究計画通りの成果が出たということを鑑みると、”(2) おおむね順調に進展している”の評価が妥当である。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画していたSrTiO3基盤上のFeSe薄膜における超伝導の転移温度上昇の研究は格子振動の自由度がいかに電子自由度の性質(超伝導の安定性)に影響を与えるかというものであったが、それと同時に、電子自由度がいかに格子自由度に影響を与えるかという研究も非常に重要である。そのため当初の計画を少し変更して、電子自由度が格子自由度に与える影響を調べる研究の遂行も追加して行う。
特に電子相関の効果が格子振動にどう影響を及ぼすかということは非常に興味深い。特にFeSb2などの物質においては温度変化によって金属から半導体に変化する。それに伴い格子振動の様子も温度によって異なってくることが考えられる。この影響を調べるために我々が近年開発した制限密度汎関数摂動論(cDFPT)を用いて、FeSb2に対する格子自由度も含めた現実的な有効ハミルトニアンを導出し、それを解析することによって、電子自由度がどう格子自由度に影響を与えるかということについて解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入をした計算機クラスターの費用が相見積もりにより予定よりも抑えられたために物品費の額が予定よりも少なくなり、次年度使用額が発生した。 次年度は大きな国際学会の開催が日本で多く予定されており、主に旅費として使用する予定である。
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