本研究の主題は、電子・格子自由度がどう絡み合って物性を形成するかという点にある。本研究では、その絡み合いを明らかにするために、電子・格子自由度が相互作用しあう模型に対する機械学習を用いた量子多体計算手法の開発に成功し、世界最高精度レベルで基底状態波動関数を構築できることを示してきた。高精度な定量計算手法の開発は、将来の機能物性予測を達成するためには必須であり、その礎を築いた。
2019年8月末に、高温超伝導体として知られる銅酸化物高温超伝導体との類似物質として期待される、ドープしたニッケル酸化物Nd0.8Sr0.2NiO2において超伝導の報告があったために、昨年度から予定を変更し、ニッケル酸化物において格子構造を制御することによって電子状態を制御する物質デザインの試みを始めた。その結果、バンド構造がより銅酸化物に近いニッケル酸化物の提案に成功した。
本年度においては、格子構造の制御によりデザインされた新たなニッケル酸化物の性質をより詳細に予測するために、より詳細に銅酸化物高温超伝導体との比較を行った。銅酸化物における超伝導は、強い電子間の斥力によって電子が動けなくなったモット絶縁体にキャリアをドープすることで発現する。この高温超伝導に重要な役割を果たしている可能性のある量がスピン間の交換相互作用である。銅酸化物は非常に大きな交換相互作用(~130 meV)を持つことで知られ、それが銅酸化物を特別な物質にしている。今回、デザインされたニッケル酸化物のスピン間交換相互作用の大きさを調べたところ、80-100 meV程度に達し、銅酸化物よりは小さいものの、大きな交換相互作用を持つことがわかった。このことから、ニッケル酸化物は転移温度の高い超伝導を探る上での良い舞台であることが明らかになった。このように格子構造制御よって、超伝導性能が向上する可能性を示す重要な成果を得ることができた。
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