研究課題/領域番号 |
17K14337
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
家永 紘一郎 東京工業大学, 理学院, 助教 (50725413)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ネルンスト効果 / 渦糸 / 超伝導-絶縁体転移 / ボーズグラス |
研究実績の概要 |
2次元超伝導体中の量子化磁束(渦糸)はクーパー対との双対性からボーズ粒子として振る舞う可能性がゲージ場理論の観点から提唱されている。特に乱れた2次元超伝導体の極低温・高磁場領域では、渦糸のボーズ凝縮に対応するボーズグラス相と呼ばれる絶縁相の存在が理論的に予想されている。これまでの極低温・高磁場領域での電気伝導度測定からその傍証は示されているが、ボーズ凝縮の直接的な検出には至っていない。そこで本課題では、熱電効果測定を行いて温度差の印加に対する渦糸の応答を観測することで、より多角的な視点からの研究を試みる。 本年度は熱電効果測定用の機構を設計・自作し、研究室保有の4K冷凍機へ設置した。薄膜試料に温度勾配を印加するためには、熱伝導率の低いガラス基板上に蒸着した超伝導薄膜試料の片側だけを熱浴と熱接触させ、反対側からヒーターを用いて熱流を印加する。このときガラス基板と熱浴間やガラス基板とヒーター間の熱抵抗を十分小さくし、試料上の測定用リード線と熱浴の間の熱抵抗を十分高くする。その後、測定機構の性能を試す予備実験として、従来の電気抵抗測定によって温度-磁場軸上の渦糸相図が明らかになっている、3次元超伝導アモルファスMoGe膜を用いた熱電効果測定を10 K以下の温度域で行った。その結果、渦糸液体相と呼ばれる渦糸がピン止めを受けず自由に動ける温度・磁場領域において、渦糸運動に起因した明瞭な熱電信号を観測することが出来た。さらに超伝導が破れた臨界磁場より高磁場の領域では、超伝導ゆらぎに起因した熱電信号が観測され、渦糸由来の信号と明確に区別されることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では冷凍機に設置するための熱電効果測定用のセットアップの設計・作製からおこなった。バルクの基板上に成膜された超伝導膜に対して面内に温度勾配を印加する必要があるが、熱流の経路に注意してセットアップを作製した結果、十分な温度勾配を得ることができた。温度勾配によって誘起された渦糸由来の熱電信号は非常に小さく、試料とリード線の接続によって生じる熱起電力バックグラウンドと同等の強度であったが、各測定点ごとにバックグラウンドを差し引くように測定手順を改良したところ、本質的な熱電信号だけを分離することができた。このように、研究は概ね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、渦糸相図が既に明らかになっている3次元超伝導体のアモルファスMoGe膜を用いて、10Kから5Kの温度領域において渦糸由来の明瞭な熱電信号を観測することができた。来年度は、膜厚をより小さくした2次元超薄膜試料を作製し、まず希釈冷凍機を用いた1K以下での電気抵抗測定によって、ボーズグラス状態の出現が予想される極低温・高磁場の極限領域における渦糸相図を得る。その後、この極低温・高磁場領域において熱電効果測定を実施することで、ボーズ凝縮に起因した信号の探索を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度は、自作した熱電効果測定機構を研究室保有の4K冷凍機へ設置し、10K以下の温度域で予備実験を行った。計画時には100mK以下の希釈冷凍機温度で動作する精密温度コントローラーを購入する予定であったが、実際に希釈冷凍機を運転させるタイミングで購入を検討した方が良いと判断し、H30年度に予算を繰り越した。
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