研究課題
2次元超伝導体中の量子化磁束(渦糸)はクーパー対との双対性からボーズ粒子として振る舞う可能性があり、特に乱れた2次元超伝導体の極低温・高磁場域では、渦糸のボーズ凝縮に対応するボーズグラス相と呼ばれる絶縁相の存在が理論的に予想されている。これまでに電気抵抗測定から傍証は示されているが、ボーズ凝縮の直接的な検出には至っていない。そこで本課題では、熱電効果測定を行い温度差に対する渦糸の応答を観測することで、多角的な視点からの研究を試みる。2017年度は熱電効果の測定機構を作製し4K冷凍機で予備実験を行なった。試料には、電気抵抗測定から既に温度-磁場軸上の渦糸相図が明らかである、超伝導アモルファスMoGeの3次元膜を用いた。その結果、渦糸液体相という渦糸がピン止めから自由に動ける温度・磁場領域において、渦糸運動に起因した明瞭な熱電信号を観測できた。さらに超伝導が破れた高磁場域では超伝導ゆらぎに起因した熱電信号が観測され、渦糸信号と明確に区別されることがわかった。2018年度は希釈冷凍機での実験を実施した。試料には膜厚がコヒーレント長以下のアモルファスMoGeの2次元薄膜を用い、極低温下で温度差を印加するためにガラス基板上に成膜した。電気抵抗測定の結果は、絶対零度に向かって磁場誘起超伝導-絶縁体転移を示した。超伝導転移温度(2K)付近から100mKまでの様々な温度で磁場掃引によって熱電効果を測定したところ、高温域のみならず極低温域においても渦糸信号を明確に捉えることができた。しかし今回の試料は膜厚が十分に小さくなく乱れの効果が弱かったためか、極低温・高磁場域の絶縁体相内において、ボーズグラスを示唆する負の磁気抵抗が明確には観測されておらず、熱電信号も高磁場域の絶縁体相へ向かって消失していった。今後は負の磁気抵抗が明確に観測される最適な膜厚を探し、ボーズグラス相の探索を進める。
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Journal of Physics: Conference Series
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New Journal of Physics
巻: 21 ページ: 043007~043007
https://doi.org/10.1088/1367-2630/ab1170