鉄系超伝導体をはじめとした多軌道強相関電子系では、電子の持つ電荷・スピン・軌道の自由度が互いに協力・競合して非自明な現象が起きる。本研究の目的は、これらの自由度間の結合による揺らぎ発達や秩序形成と、それらに由来する非従来型超伝導の発現機構の解明である。本研究では主に、鉄系超伝導体、銅酸化物高温超伝導体、遷移金属ダイカルコゲナイドの電子状態を解析した。鉄系超伝導体においては、最も超伝導転移温度の高い電子ドープFeSe系に着目して解析した。スピン揺らぎ間の干渉による軌道揺らぎの発達を見出し、フルギャップs++波超伝導の再現に成功した。高温超伝導において、Migdal近似を超えた多体相関の重要性を明らかにした。また、銅酸化物高温超伝導体の擬ギャップ相及び電荷密度波相について、高次摂動理論および汎関数くりこみ群法を用いて解析し、これらの起源としてサイト間の飛び移り積分の強度が変調するボンド秩序、さらには自発的スピン流によるスピンループカレント秩序の可能性を提唱した。これらは、サイト間の結合の強さが変わる電荷秩序の一種であり、平均場近似では取り扱えない多体効果である。鉄系および銅酸化物系超伝導体では、共にスピン・軌道・電荷の結合という共通の物理があり、様々な強相関電子系において普遍的に重要な役割を果たすと期待される。 なお、本事業は研究計画変更により期間を1年延長した。最終年度である2020年度は鉄系超伝導体に加え、遷移金属カルコゲナイド1T-TaS2に多段電荷密度波と超伝導相の母相となる、非整合波数の電荷密度波相の起源について解析した。その結果、多体相関に起因して、実験と整合した非整合波数の電荷密度波が自然に得られることを見出した。さらに、得られた秩序は電荷・軌道・ボンド秩序が協力し、波数・振動数空間で符号反転を持つ非従来型の電荷密度波を得た。
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