研究課題/領域番号 |
17K14345
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
古川 哲也 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 助教 (10756373)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電気磁気効果 / 電流誘起磁性 / 核磁気共鳴 / 空間反転対称性の破れ / 半導体 / 磁性 / カルコゲン / 軌道自由度 |
研究実績の概要 |
本研究は、反転対称性の破れた構造を有する単体カルコゲンにおけるスピン分裂バンドとカイラル結晶構造に注目することで、新奇電気磁気効果を発現させ、さらにその効果の巨大化と機構解明を目指すものである。 最大の目的である新奇電気磁気効果発現の検証については、カイラル結晶構造を持つ三方晶単体Teの単結晶を用いて、パルス電流印加下の125Te-核磁気共鳴(NMR)測定を行うことにより、電流誘起磁化発現にともなうNMRスペクトルのシフトを検出することに成功し、その目的が達成された。 またクランプ式圧力セルを用いた静水圧加圧によってスピン軌道相互作用の効果を制御し、電流誘起磁化の巨大化を目指した。静水圧下におけるTeのバンドギャップが数kbarの加圧で大きく減少することを電気輸送特性実験から明らかにした後、静水圧下におけるパルス電流印加下125Te-NMR測定を行い、加圧下における電流誘起磁化の検出に成功した。結果として、加圧による電流誘起磁化の巨大化を引き起こすことはできなかったが、電流誘起磁性の圧力依存性からこの現象の起源として、スピン軌道相互作用だけでなくカイラル結晶構造から来る軌道自由度が重要な役割を果たしているという非自明な結果を明らかにすることができた。 この結果は、スピン自由度だけでなく軌道自由度も関与するまったく新しいバルク電気磁気効果を実験的に初めて見出したものであり、電気磁気物性全体に新しい知見をもたらすものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最大の目標は、反転対称性の破れた構造を有する単体カルコゲンにおいて新奇電気磁気効果を発現させ、それを実験的に検証することであったが、単体Teを用いた実験によって電流誘起磁化の検出に成功したので、この目的が初年度において達成された。また研究の過程で電流誘起磁化のキャリア密度依存性が大きくない可能性が理論計算等によってわかったので、計画を前倒しして単体Teを用いた電流誘起磁化の圧力依存性の測定を行った。Teの圧力下の輸送特性を実験的に明らかにした上で、加圧下におけるパルス電流印加下NMRの観測に成功し、その圧力依存性からこの電流誘起磁化のメカニズムにカイラル結晶構造からくる軌道自由度が重要な役割を果たしているということを明らかにした。新奇電気磁気効果の検出に成功し、またその機構解明が進んでいることから、本研究は、順調に進展していると結論できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の成果により、単体Teにおいて電流誘起磁化が発現することがわかった。さらにその起源として、スピン軌道相互作用だけでなく、カイラル結晶構造に由来する軌道自由度の重要性が明らかになった。平成30年度は、Teと同じカイラル結晶構造を持ちながら、スピン軌道相互作用が小さい単体Seにおける電流誘起磁化の発現を、電流印加下の77Se-NMR測定によって検出し、電流誘起磁化の起源におけるスピン軌道相互作用と軌道自由度の関係を詳細に明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度では、単体Teにおける電流誘起磁化の検出及び、キャリア密度制御による電流誘起磁化の巨大化を目指していた。しかし、電流誘起磁化検出の研究途上で、この電流誘起磁化のキャリア依存性が弱いことが理論計算から予想されたため、次年度に予定されていた電流誘起磁性の加圧効果実験を前倒して実行した。その結果、この新奇電流誘起磁性の非自明な機構が明らかになった。このためキャリア密度制御のために計上していた予算は次年度の単体Seにおける電流誘起磁化検出のために有効活用することとした。
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