平成29年度に、Teを用いて電流誘起磁性の実現に成功し、その圧力効果の検証から、Teのカイラル構造に起因する軌道自由度によるバンド分裂が本現象に重要な役割を果たすことを明らかにした。これを踏まえ平成30年度では、まず電流誘起磁性発現に必要な条件を対称性の観点から整理し、当初は空間反転対称性の破れがあれば生じると考えていた(線形)電流誘起磁性の必要十分条件はジャイロトロピックと呼ばれる、空間反転対称性よりも強い条件であることを明らかにし、また32種類の結晶点群それぞれの応答テンソルを整理することに成功した。続いて単体Seの実験に取り組んだが、多くの文献で知られている通りSeの単一ドメイン単結晶の作成は困難を極め、単結晶試料作成の目処は立ったものの、電流誘起磁性については期間内に望む成果は得られなかったため、引き続き研究を継続する予定である。一方で、新たに単体Teの右手・左手結晶の作り分けに成功し、新たに行った左手結晶の実験結果とこれまでの研究から、電流誘起磁性が結晶のカイラリティによって符号依存することを初めて見出した。また観測された電流誘起NMRシフトが、電流誘起磁性によるものか、NMR測定のための磁場と電流印加のための電場による電場磁場双線形効果によるものかを検証するために、電流誘起NMRシフトの磁場極性依存性の実験を行った。その結果、この現象が電場磁場双線形効果によるものではない兆候を得ることに成功し、電流誘起磁性の実験的証明をより完全なものと足がかりを得ることができた。 以上の研究は、新奇電気磁気効果としてのバルク電流誘起磁性について世界で初めてその実現に成功し、さらにその発現機構をマクロな対称性の議論から整理し、さらに結晶構造・バンド構造というよりミクロな視点からの理解へとつながる実験事実を明らかにしたものであり、今後のさらなる展開につながるものである。
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