研究課題/領域番号 |
17K14347
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
深谷 亮 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特任助教 (30735072)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 光誘起相転移 / 時間分解X線回折 / コバルト酸化物 / 光物性 / 物性実験 / 磁性 / 超高速ダイナミクス |
研究実績の概要 |
本研究では、強相関電子系物質における過渡的な構造や電子の秩序状態変化に付随した動的機能性発現過程を、時間分解X線回折法によりフェムト秒・ピコ秒の時間スケールで実時間観測すること目的としている。 放射光とX線自由電子レーザーを相補利用して研究を推進するため、本年度は高エネルギー加速器研究機構の放射光施設PF-ARにて放射光を利用した時間分解X線回折測定システムの高度化を実施した。X線検出器は、単一X線光子を計測可能な機能を備えており、かつ外部からの電気ゲート信号により放射光と同期した任意の繰返し周波数で選択的にX線パルスが計測可能な、光子計数型二次元検出器を用いることで、放射光X線パルスとレーザーとのタイミングが同期した高感度検出システムを構築した。また、本検出器を実装可能なX線回折計を作製し、時間分解測定システムに導入することで、従来のCCDを用いた測定システムでは検出が困難であった極めて微弱な回折信号の過渡変化を追跡することを可能にした。 さらに、測定繰返し周波数の向上を図るため、試料の光励起状態を生成するためのレーザー光源として、繰返し可変レーザーを導入した。このレーザーの発振繰返し周波数はシングルショットから2 MHzまで可変であるため、放射光X線パルス(794 kHz)と同期して同じ周波数で発振させることにより、すべてのX線パルスを検出光として利用可能な測定システムを構築した。 これら高感度・高効率化した測定システムで、ペロブスカイト型コバルト酸化物LaCoO3薄膜の軌道秩序に由来する非常に微弱な超格子反射回折点、および構造変化に敏感なブラッグ反射回折点のピコ秒―ナノ秒領域での過渡変化の観測に成功した。これらの結果をもとに、X線自由電子レーザーを利用したフェムト秒領域の実験実施に向けた検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標であった、放射光を利用した時間分解X線回折測定システムの高度化を達成することができた。また、高度化した本測定システムを用いてピコ秒―ナノ秒領域の軌道秩序―構造の相関ダイナミクスを観測することに成功しており、本研究計画に沿って順調に進展している。さらに、放射光を利用した測定システムの時間分解能(およそ100ピコ秒)以内における構造変化と軌道秩序融解のダイナミクスの相関が、巨視的な相転移へと発展する過程の引き金となっていることを示唆する結果が得られたため、X線自由電子レーザーを利用したフェムト秒領域でのダイナミクスを観測することが必要不可欠であるとの見解を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた実験結果に基づき、放射光とX線自由電子レーザーを相補利用して、ペロブスカイト型コバルト酸化物LaCoO3薄膜におけるフェムト秒からナノ秒領域にわたる過渡的な構造と秩序状態変化ダイナミクスの直接観測を目指す。 構造変化に敏感に応答するブラッグ反射回折点から、光励起状態と熱平衡状態との構造の違いを明確に判断する。また、コバルトK吸収端のプリエッジに合わせた7.7 keVのX線エネルギーで軌道秩序由来の超格子反射回折点の過渡変化を検出することにより、磁気及び軌道秩序の発現に直結するコバルトd軌道のeg電子のダイナミクスをサイト選択的に直接観測する。さらに、光誘起相転移現象の特徴である「協同的電子―格子相互作用」を経て巨視的な相転移へと成長する過程を、過渡変化の励起密度依存性を精密に評価することにより、詳細に追跡する。 これらの実験で得られた結果を取りまとめ、強相関電子系における光励起状態とその電子・構造・秩序ダイナミクスの全貌およびそれに付随する動的機能性発現過程を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に出張予定が都合により一部キャンセルとなったため、次年度使用額が生じた。その分、次年度にレーザー用光学部品の購入に使用予定である。
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