強相関電子系物質で発現する光誘起相転移現象の本質を理解するためには、トリガーとなる電子状態変化とそれが巨視的な相転移へ発展する過程、及び動的機能性の起源を詳細に追跡・実測することが必要不可欠である。本研究では、強相関電子系物質における過渡的な構造や電子(スピン・軌道)の秩序状態変化に付随した動的機能性発現過程を、時間分解X線回折測定によりフェムト秒・ピコ秒の時間スケールで実時間観測し、包括的に光誘起相転移現象を解明することを目的としている。 放射光とX線自由電子レーザーを相補利用して本研究を推進するため、本年度は高エネルギー加速器研究機構の放射光実験施設PF-ARから発せられるピコ秒X線パルスと、理化学研究所のX線自由電子レーザー施設SACLAから発せられるフェムト秒X線パルスを利用して、フェムト秒からナノ秒の時間領域にわたる時間分解X線回折測定を強相関電子系遷移金属酸化物の典型物質であるペロブスカイト型コバルト酸化物LaCoO3を対象に実施した。 前年度にPF-ARにて高度化したピコ秒時間分解測定システムを利用することにより、ナノ秒領域におけるスピン状態-軌道-構造の動的相関ダイナミクスの観測に成功した。これらの結果から、フェムト―ピコ秒領域の初期過程におけるスピン・軌道秩序と構造の相関が、ナノ秒領域で観測される巨視的な電子・構造相転移へと発展する過程で重要な役割を果たしていることか示唆された。 また、放射光を利用してで得られた結果を基にSACLAにてフェムト秒時間分実験を実施し、フェムト-ピコ秒領域における構造及びスピン・軌道秩序状態が相関した光誘起初期ダイナミクスの観測に成功した。これらの実験結果から、光励起直後に生じるスピン・軌道秩序状態の変調が引き金となって、数ピコ秒の時間スケールで構造や秩序状態が協同的相互作用により巨視的な相転移へと発展する過程が明らかとなった。
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