研究実績の概要 |
電子濃度x = 0.12(低濃度)とx = 0.16(高濃度)のPLCCO単結晶を用いて、放射光非弾性散乱実験を行なった。PLCCO x = 0.12について、Q = (4, 0, 0) から、dQ = (0, q, 0) 方向に伝播する横波音響振動の分散関係を決定したところ、非常に微小ではあるものの、Tc (= 25 K)以下で、振動数が低下することを見出した。この振動数の低下は、5 meV 程度を境に見られることがわかった。PLCCO x = 0.11について、超伝導転移に伴い、 (0.5, 0.5) 近傍で振幅を持つd波的なギャップが電子系に見られることが、角度分解光電子分光法により報告されている[1]。(0.5, 0.5) 近傍のギャップは、準粒子励起に 5 meV 程度の影響をもたらすものと見積もられ、本実験で観測できた格子振動の振動数低下との密接な関係を示唆する。つまり、本研究において、超伝導ギャップ関数の対称性を、準粒子励起の観測を基に同定しうる結果が得られたものと考えられる。一方、PLCCO x = 0.16については、同様の振動数低下が、より高い振動数で起こっていることを見出した。本組成では、Tc = 20 K と x = 0.12 のものよりも低く、平均場理論に習えば、ギャップ関数のエネルギースケールは小さいはずである。この結果は、銅酸化物高温超伝導系で長年問題となっている、擬ギャップや異常金属相と関連して興味深い。 引き続き、伝播方向依存性を明らかにするために、単結晶試料の大型化を図り、中性子散乱実験による高分解能を行っていく。 [1] H. Matsui et al., PRL 95 (2005) 017003.
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