研究実績の概要 |
購入したマッフル炉を用いて合成した試料を用いて非弾性中性子散乱実験を行い、電子注入型高温超伝導体 PLCCO x = 0.12の磁気励起の温度変化の詳細な測定に成功した。その結果、本系の磁気励起は、磁気 ガンマ点 q = (pi, pi) に位置にし、スペクトル強度分布が E = 0 meV から瘤状構造を持って立ち上げる、いわゆるパラマグノンとなっていることが示された。特に T = 50 Kより高い温度では強度が減少するが、一方で超伝導転移温度 Tc = 25 K上下では特徴的な変化は観測されなかった。PLCCO x = 0.11は、超伝導転移に伴い、 (pi, 0) 近傍で振幅を持つd波的なギャップが電子系に見られることが、角度分解光電子分光法により報告されている。(pi, 0) 近傍のギャップは、準粒子励起に E = 5 meV 程度の影響をもたらすものと見積もられ、本実験で観測できた、格子振動の振動数低下との密接な関係を示唆する。また、磁気励起スペクトルが Tc 上下で顕著な変化を示さなかった様子は、電子系のギャップが (pi, pi) 方向にノードを持つことと、整合して理解できる。つまり、本研究において、超伝導ギャップ関数の対称性を、準粒子励起の観測を基に同定しうる結果が得られたものと考えられる。準粒子励起は系の応答を直接的に特徴づけ、Cooper対を形成するにあたって“糊付け”の役割を果たすものである。解析を進めて超伝導状態との関係を明らかにし、相図上での高温超伝導ギャップ関数の振る舞いの理解に繋げる。
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