研究課題/領域番号 |
17K14355
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊丹 將人 京都大学, 理学研究科, 特定研究員 (00779184)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 統計物理学 / 非平衡 / ゆらぎ / 断熱ピストン問題 / 大偏差原理 |
研究実績の概要 |
無限に長い筒に1次元方向に摩擦なく自由に動ける仕切り壁を入れ、左右の領域を圧力は等しいが温度は異なる希薄気体で満たす設定を考える。仕切り壁は気体を構成する粒子よりも十分に重いと仮定し、質量比のルートを微小パラメータにとる。仕切り壁への気体の衝突を適切な確率過程で記述することで、仕切り壁の速度の確率密度関数だけで閉じたマスター方程式が得られる。これは断熱ピストン問題の文脈でよく用いられるモデルであり、仕切り壁はゆらぎながら高温側へと動くことが知られている。本年度は、このモデルにおいて仕切り壁の長時間での振る舞いを記述する有効運動方程式を模索する1つの試みとして、仕切り壁の長時間変位のキュムラントの統計性に着目し、 キュムラントを完全に再現するような有効運動方程式が存在するか検証した。 まずは、上記のモデルにおいて仕切り壁の長時間変位のキュムラント母関数を摂動的に計算し、解析的な表式を得た。一般に長期間で積分した統計量のキュムラント母関数は、適切な演算子の最大固有値として表現できることが知られている。今回のモデルでは摂動の最低次において、適当な変数変換をすることにより最大固有値を求める問題を量子力学の調和振動子の基底エネルギーを求める問題にマップすることができるため、長時間変位のキュムラント母関数を解析的に導出することができた。得られた結果は昨年度の数値実験の結果と無矛盾だった。さらに、得られた長時間変位のキュムラント母関数と全く同じ長時間変位のキュムラント母関数を与えるランジュバン方程式が無限に存在することを発見した。これは、長時間平均された統計量の統計性だけでは、現象の長時間での振る舞いを有効的に記述する方程式を一意に特定できないことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画ではソレー効果と断熱ピストン問題を比較しながら研究を行う予定であったが、昨年度末に断熱ピストン問題においてピストンの長時間での振る舞いを有効的に記述する方程式に関する理解が深まったので、今年度も継続して研究を行った。昨年度までは数値実験による結果しかなかったが、数値実験では確認するのが困難な高次キュムラントを解析的に導くことができ、キュムラント母関数という観点から有効記述を考えると有効的に現象を記述するランジュバン方程式は無限に存在することが確認できたため、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では、2019年度以降は新しい系に対する研究を開始する予定であったが、研究計画時には考えていなかった方向に研究が進展したため、2020年度も断熱ピストン問題においてピストンの長時間での振る舞いを有効的に記述する方程式の導出を目指して研究を行う。数値的に方程式を推定すると共に、解析的に得られた結果を用いて有効方程式を決定する原理を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、現在の職の任期が今年度末までであり、購入した物品を移管できるかが不透明であったためである。残額は次年度初めに計算機の購入費にあてる予定である。
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