最終年度は主に断熱ピストンの有効ランジュバン方程式の導出に関する研究を行った。昨年度の研究により、断熱ピストン問題においてピストンの時間平均速度の大偏差関数に着目しても、非平衡系では詳細つりあい条件を使えないこともあり、有効的なランジュバン方程式の形を完全には決定できないことが判明したため、運動方程式の形を絞るための条件を考察し、あり得る条件の候補を2つ発見した。昨年度と今年度に得られた結果を論文にまとめ、論文はPhys. Rev. Eに掲載された。 今年度の後半は、上記の研究をさらに発展させるために高性能な計算機を購入し、数値実験で得られたデータを解析することによって、断熱ピストンの有効的な運動方程式の形を決定する方法を模索した。しかし、予想していなかった結果が得られてしまい、試行錯誤したものの断熱ピストン問題で有効的なランジュバン方程式の形を決定する方法を見つけ出すことはできなかった。本研究課題は令和2年度で終了となるが、この研究は今後も続けていきたい。 本研究課題の研究期間全体を通して、単純なソレー効果と断熱ピストン問題に対して解析的な研究と数値的な研究を行い、熱流に誘起されて発生する力に関する理解を深めることができた。特に、長時間での変位に着目することで巨視的な物体の有効的な運動方程式を導くという、新しい視点からの研究を生み出すことができたのが一番の成果である。この研究により、熱伝導下における物体の有効的な運動方程式や熱流誘起力を理解するための礎を築くことができたと考えている。
|