研究課題/領域番号 |
17K14356
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
及川 典子 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (40452817)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 液液溶解 / 界面張力のゆらぎ / 2成分溶媒 / イオン液体 |
研究実績の概要 |
混ざり合う2つの液体が接触するとき、濃度勾配による過渡的な界面が形成されることがあり、その界面を保ちながら混合する現象は液液溶解と呼ばれる。本研究ではこれまでに、イオン液体と水の混合過程において、イオン液体が液液溶解を示すことを発見した。これまでに知られている液液溶解の界面とは異なり、イオン液体液滴の界面は混合過程の最終段階まで持続し、界面張力が非常に大きく、界面厚が時間的に一定であるという特徴をもつ。またイオン液体の液液溶解においては、液滴から水へのイオン液体分子の移動は起こるが、水分子は液滴内へ入り込まないという一方向の輸送が起こる。 また、溶媒の水にエタノールを混ぜることによって系の疎溶媒性を弱くすると、イオン液体の液滴界面が形成されにくくなっていくとともに液滴に自発的に穴が開き、その穴がランダムに開いたり閉じたりする現象(アクティブホール現象)が生じることが本研究のこれまでの実験から見出されている。この現象は相分離の臨界点が温度だけでなく溶媒の成分比にも依存する2つ以上の成分からなる溶媒をもつ系に特有の現象であると考えられ、界面張力の振動を伴うことから液液溶解の機構とも密接に結びついていると考えられる。 上記のようなイオン液体の液液溶解の機構を解明するために、本研究課題では、1)イオン液体分子の作るクラスター構造の測定、2)アクティブホール現象の形成過程およびダイナミクスの詳細な観察、3)イオン液体と水の相分離過程(臨界指数およびパターンの粗大化過程)の測定、の3つの方法からアプローチを行っている。これまでに2)について詳細な実験を行い、アクティブホール現象の機構の解明につながる重要な成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水/エタノールの2成分溶媒におけるイオン液体の溶解過程で見られるアクティブホール現象について、詳細な実験を行い、学術誌に報告した。その内容は以下の通りである。 1)アクティブホールの形成条件:水/エタノールの混合比をパラメタとして変化させ、1成分溶媒系のように界面を残したまま溶ける領域と拡散的に溶ける領域の境目において、自発的に穴を形成しながら溶解するアクティブホール現象が生じる領域が存在することを明らかにした。 2)液滴界面の時間的振動:アクティブホールの数および面積の時間変化について測定し、アクティブホール現象が液滴界面の不安定性によって生じることを明らかにした。 3)アクティブホール現象の機構:イオン液体に蛍光剤を注入し、穴が形成される直前のイオン液体液滴の厚さの時間変化を測定することにより、アクティブホール現象の発現が、溶解における3成分の濃度揺らぎによって引き起こされる液滴の界面張力の時間・空間的な不安定性に起因していることを明らかにした。 溶媒が2つ以上の成分からなる多成分溶媒系では、相分離の臨界点が、温度だけではなく、溶媒の成分比にも依存する。温度とは異なり、溶媒の成分比は空間依存性をもち、また溶質との親和性にも関わっているため、多成分溶媒系に特有の不安定現象が生じる。本研究では、2成分溶媒における溶解過程において発現する新規な界面の不安定現象について、詳細な実験の結果に基づいた機構の提案を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題における3つの研究内容のうち、残りの2つについて研究を行っていく。 ・イオン液体の疎水性およびイオン液体分子のクラスター構造について これまでのX線散乱実験および分子動力学計算による研究から、イオン液体分子が水との混合状態においてクラスター構造を形成していることが知られている。このクラスター構造はイオン液体分子の水分子に対する実効的なサイズを大きくすることから、イオン液体と水の界面において疎水性の効果を高め、液液溶解の現象を引き起こしている可能性がある。本研究では今後、X線散乱測定を行うことにより、界面領域におけるこれらの構造について明らかにする予定である。 ・イオン液体と水の相分離過程の測定について イオン液体とさまざまな溶媒との2相系における臨界現象では、イオン液体分子のクラスター構造に起因してイジング型から平均場近似へのクロスオーバーが見られることが知られているが、溶媒が水である場合には臨界指数がイジング型から平均場近似へ向かって単調に変化せず、一時的に平均場近似とは逆の傾向へ変化することが明らかになっている。この臨界指数の非単調な変化はイオン液体と水の界面における構造に起因する可能性があると考えられることから、本研究では今後、イオン液体と水の相分離過程における臨界指数を測定することで、イオン液体の液液溶解を引き起こす要因についての考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度は学内の研究資金にて研究を行い、顕微鏡用温度制御装置、光散乱装置、恒温槽を使う研究は来年度に繰り越した。 2017年度末に研究機関を異動することが決まったため、資産名義の異動をできるだけ避け、次年度に装置を購入して該当の実験を行うこととした。
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