研究課題/領域番号 |
17K14357
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
橋爪 洋一郎 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 講師 (50711610)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 量子アニーリング / データ解析 / 主成分分析 / 判断分析 / エントロピー / 時間短縮 |
研究実績の概要 |
量子アニーリングは1998年に門脇・西森によって提案され,最適化問題を解く汎用的な技術として,期待されている.2011年5月にカナダのD-Wave社が量子アニーリングを実行できる商用量子コンピュータとしてD-Wave Oneを発表して以来,世界各国で開発競争が進み,それまで実現困難とされていた量子コンピューティングが急激に現実味を帯びてきている.このような,量子アニーリングとデータ解析技術の発展を踏まえて, 2015年には研究代表者によって量子アニーリングをデータ解析に用いることが提案された.本研究課題は,こうした量子アニーリングの発展を活用し,これまでの古典計算とは異なるデータ解析を可能にし,より発展させることを目指すものである. 研究期間は3年間であり,2年目である2018年度には量子アニーリングの多面的な展開を行うために,具体的な解析手法への応用可能性の検討を行った.主な成果として,判断分析を量子アニーリングによって実施できる可能性が見出された.さらに,この手法を用いて時系列データの解析や予測が可能になる.この検討には気象など,一般に公開されているデータを利用しており,特殊なデータセットに限らず利用できることがわかる.また,この検証に関連して,エントロピーを指針にして計算時間を短縮することができることが分かった.具体的には,主成分分析を量子アニーリングで行う場合に,エントロピー基準による時間発展を利用すると,利用しない場合に比べて60%程度の計算時間で済むことが試算できた.こうして本研究課題の中心である「データ解析への量子アニーリングの適用手法の検討」を遂行した.最終年度である2019年度には,これらの成果を踏まえて,応用展開をはかる. なお,以上の研究成果は日本物理学会や国際会議AQCなどで発表しており,他大学の研究者らと共に論文も出版予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は「データ解析への量子アニーリング適用手法開発」を目指すことが計画されていた.ここでは,2017年度に得られた量子アニーリングと特異値分解・主成析の本質的な理解に基づいて,より多面的なデータ解析への応用が可能かどうかを検証することが目的であった.我々は判断分析にまず着目し,さらに時系列データの解析と予測への利用を行い,量子アニーリングによってそれが実行可能であることを見出した.また,この検討の際には計算時間の短縮が求められるが,エントロピーに着目した時間発展のさせ方を提案した.これによって時間短縮が可能であることが(少なくともシミュレーション上で)明らかとなった.この点は本研究課題から得られた大きな結果の1つであるといえる.この結果に基づいて,2019年度の研究計画における「具体的な系への応用」への幅が広がったといえる.これらの結果は,学会・国際会議・論文などで発表予定であり,現在までの進捗状況はおおむね順調であるといえる.
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に得られた,データ解析への活用方法について,より詳細で具体的な検討が必要である.特に,これまでは一般的な社会データ等を利用しているので,特別な情報構造をしているわけではない.このことは,汎用的である可能性を示唆するとともに,一方で,特殊な場合に利用できない可能性も有している.したがって,データ構造依存性については大変重要な課題点であり,検討を進める. さらに,当初の計画通り,材料やデバイスへの応用展開の可能性も模索する.特に,輸送現象を対象としてシミュレーテッドアニーリングによる状態密度推定などができるようになっている.これらを量子アニーリングでもできるかどうか検討する.また,実験的に測定される計測値を,時系列データとみなして,解析・予測の検討を行う.これは物質材料科学への量子アニーリングの活用として新たな展開の可能性がある.
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用が生じた理由】2018年度の検討において,データの前処理や,計算時間などを明らかにするためのシミュレーションに計算機を利用する予定であったが,比較的小規模なデータを系統的に調査することで,始めから大規模でなくても検証を遂行することが可能となっためである.
【使用計画】今後は実際の実測データなどを対象にするため,人工的に小規模データとすることなどが難しくなるので,2019年度の段階からは大型データを処理するような計算が必要になる.それに向けて計算用のワークステーションを現在発注済みであり,これを用いてさらに多様な可能性を検討できるようにすることができる.
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