研究課題/領域番号 |
17K14358
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
苅宿 俊風 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 研究員 (60711281)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | トポロジカル系 / ディラック・ワイル半金属 / グラフェン |
研究実績の概要 |
計画に従い,ディラック・ワイル半金属の波数空間の特異点の操作法に関して,i) 長波長の実空間構造による影響,ii) 微細構造による影響,と二通りの考え方に従って研究を遂行した. まず長波長構造については,ディラックコーンを持つ系における擬磁場(synthetic gauge field)及びその帰結としてのランダウ準位の生成の研究を行った.結果としてエネルギースペクトルに現れる観測可能なランダウ準位の数を数える新しい公式を求めることができた.また,その公式を既に知られたディラック・ワイル半金属に適用することも行った.この点に関しては対象物質としてCa3PbO系アンチペロブスカイト物質を取り上げ研究を進めた.今年度は特にBa3SnOの電子状態の詳細な解析を行い,特異なバンド構造・フェルミ面の構造を明らかにし論文にまとめた.アンチペロブスカイト物質についてはこの他にも電子状態や輸送現象の研究を遂行中である. 微細構造に関する研究としては,グラフェンの電子状態をグラフェンシートにナノサイズの穴を開けることで制御する方法に関する研究を進めた.結果として,穴を開けるパターン次第で系にトポロジカルに非自明なギャップを開けることができることを見出した.具体的には穴を蜂の巣格子状に並べるか三角格子状に並べるかで系がトポロジカルに区別されるため,単に異なる領域に異なるパターンで穴を開ければ境界にトポロジカルに保護された局在状態が生じることを計算によって示した.このトピックに関しては複数の講演・セミナーを行った. 以上の他,相関のあるトポロジカル系の研究として量子スピン系の研究も行ったところ,量子スピン系のトポロジカル相転移が,あるパラメータ空間に生じるディラックコーンによって記述されることも見出し,本課題のの発展につながる結果となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
長波長実空間構造に関する研究はほぼ計画通りに進んでいる.擬磁場の定式化に関して新しい公式を見つけるなど進展した上,具体例としてのアンチペロブスカイト系の研究についてもBa3SnOの研究を通じおおよそ類縁の物質系の電子状態の様子,またその制御方法のヒントが得られた. 微細構造に関する研究は当初エッジ形状がトポロジカル状態に与える影響を研究する予定であった.このトピックに大きな進展がない代わりに,グラフェンにナノサイズの穴を開けて電子状態を制御する方法に関する研究が大きく発展した.こちらの方がより実験との親和性も高いのでこれはより良い方向への方針転換と考えている. 量子スピン系の研究は本課題にはじめから含まれていたものではないが,ディラックコーンとの関係を明らかにすることができたのは予想外の進展であり,今後はこちらの研究も本課題の一環として推進することを考えている. 以上それぞれのトピックに関し,論文については査読中のものもあるが各種学会・ワークショップ等では講演を行う程度には研究を成熟させており,全体的にも研究は順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
研究はおおよそ計画通り進んでいるので今後も大まかには当初計画通り遂行する予定である. 擬磁場に関しては定式化は十分であるので次のステップとして物性特性の研究を行う予定である.特に輸送係数・光学応答などの計算を通じ新奇物性を発見することを目指す.アンチペロブスカイトの研究に関しては電子状態は十分に理解された状況となったので,こちらもいよいよ物性特性の研究が主題となる.こちらについては実験との関係から,磁気応答や超伝導特性の研究を行うことを予定している. 微細構造に関する研究については当初計画に含まれていたエッジ形状の影響より,グラフェンへのナノ構造の導入によるトポロジカル相の実現に重きを置いて研究を進めているのが現状である.グラフェンへのナノ構造の導入は,「進捗状況」の項で述べた穴を開ける方法の他,原子吸着や分子吸着,構造を入れてゲート電圧をかける,モアレパターンの導入など様々な可能性があり,より実験的に実現しやすいトポロジカル相の理論設計が重要である.この状況を鑑み,微細構造の研究についてはエッジ形状の研究と合わせて,上記の研究を引き続き行うことを計画している. 以上に加え,量子スピン系の研究も並行して行う予定である.
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