本研究では,格子模型が持つ大局的な点群対称性に適応した行列積状態の構成法ならびに大規模並列化されたテンソルネットワーク法による状態の最適化手続きの高度化を行うことに加えて、テンソルネットワーク法と相性の良い解析手法の開発を行うことで、量子・古典多体模型に現れる非自明な相及び相転移の数値的同定を達成することを目的としている。 本年度は、当該課題を通じて開発している飽和磁化近傍の量子スピン系の計算に特化したシミュレータ(QS^3:キューエスキューブ)の公開と高度化、ならびに、現在テンソルネットワークとの絡みで急激に成長を遂げている量子計算機実機の自由度を活用したアルゴリズムの検証用のデータ提供を行った。あわせて、QS^3の量子回路シミュレーションへの転用可能性の調査も行った。 具体的には、高度化の面では、単純格子の並進対称性しか考慮できなかった従来のQS^3を、任意の超格子がもつ並進対称性および点群対称性に適合できるようにし、またスピン1/2の系に限定していた自由度を任意のスピン系に拡張した。この高度化されたQS^3を用いて、混合スピン鎖に現れる磁化プラトー幅に関して既存のDMRGの結果と非線形スピン波の解析とをシームレスに繋ぐことに成功した。 データ提供の面では、量子多体系の解析に資する分割統治法の量子・古典ハイブリッドアルゴリズムの有用性を検証するために、様々な格子上の反強磁性的量子ハイゼンベルグ模型の基底状態エネルギーの厳密数値計算結果を提供した。
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