研究課題
本研究では、原子間コヒーレンスを用いて励起状態からの放射レートを増幅する技術を応用し、微弱な高次QED過程(E1三光子遷移、E1×M1二光子遷移)の放射を実現、観測することを目指している。この技術は、ニュートリノの質量絶対値の精密測定や、パリティ対称性の破れの精密測定へ応用できるもので、標準理論を超えた物理の構築に手がかりを与える実験の基盤技術となり得る。これまでに、E1×E1二光子遷移の放射レートの増幅に成功しているが、本研究では、E1×E1二光子遷移の研究で培ったノウハウを活かして進めていく。本研究は、コヒーレント増幅を記述するシミュレーションモデルの構築から始まる。これまでは、E1×E1二光子遷移に関して、励起によるコヒーレンス生成や脱励起、電場の伝搬を記述するMaxwell-Bloch方程式を用いたシミュレーションを行い、実験結果を説明することに成功していた。この手法を発展させ、今回、さらに高次の過程も取り扱うことのできるMaxwell-Bloch方程式を導出し、数値シミュレーションコードを開発した。具体的には、E1三光子励起によるコヒーレンス生成と、コヒーレント増幅されるE1×M1二光子放出、コヒーレント反ストークスラマン散乱型E1×M1二光子遷移を同時に記述できるMaxwell-Bloch方程式を構築した。そして、実現可能なパルスエネルギー(数10mJ~100mJ)の励起光源を用いた場合に発生するE1×M1二光子放出の信号光がサブpJ程度であることが分かった。これは10^5個程度の光子数に相当しており、光電子増倍管を用いて検出することが可能であることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、E1三光子励起によるコヒーレンス生成と、コヒーレント増幅される様々な過程を同時に記述できるようなMaxwell-Bloch方程式を構築し、計算機によるシミュレーションコードの開発をするところから始めた。研究開始当初は、励起によるコヒーレンス生成と、脱励起過程を個別に取り扱うことしかできていなかった。これらを同時に取り扱えるようになり、より詳細なシミュレーションによって、実験セットアップを検討することができるようになった。シミュレーションの開発という本研究の目標のひとつを初年度に達成することができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
初年度に開発したシミュレーションに基づき、高次QED過程のコヒーレント増幅に必要な実験装置の開発を行う。光源開発後は、開発したパルス光を重ねて標的セルに入射することで、E1三光子励起によるコヒーレンス生成を行う。コヒーレンスが生成すると、励起光をトリガーとしたE1三光子放出と、E1×M1二光子放出がコヒーレント増幅されるので、これらを検出する。
初年度は、数値シミュレーションを中心に行ったため、次年度使用額が生じた。実験に使用する光学部品や電子部品、検出器の購入、学会参加のための旅費等に使用していく予定である。
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