研究課題
私たちはこれまで「極低温まで冷却された強相関リュードベリ原子集団」と「アト秒精度のコヒーレント制御技術」という2つの独自ツールを用いて強相関系の量子多体問題に取り組んできた。リュードベリ状態の励起光源にピコ秒パルスレーザーを用いるという独自の手法によって強相関原子集団を生成し、それが示す量子多体ダイナミクスを観測・制御することに成功している。本研究課題では、この研究成果を数100nmというマクロなサイズに渡って振動運動するリュードベリ電子波束に応用し、強相関リュードベリ原子集団における量子多体効果をより良く理解する計画である。本年度は、私たちが開発した極低温リュードベリ原子集団に対するアト秒精度のコヒーレント制御技術が、対称性の破れという物理学において極めて重要な研究の一つに適用可能であることが判明したため、実験装置の制御性改善を行うと同時に関連研究としてこの実験を行った。ある種の原子分子の基底状態の電子構造は高い対称性を持つ。これにレーザーパルスを照射して対称性の異なる励起状態との重ね合わせ状態を生成すると電子構造の対称性が破れる。その結果、原子分子内を電子がフェムト秒程度の周期で超高速運動する。適切なタイミングで2発目のレーザーパルスを照射すると、その超高速電子運動を止め初めの対称性の高い基底状態に戻すことが出来る。これを対称性の回復という。私たちは光トラップ中に準備した基底状態のルビジウム原子をピコ秒パルスレーザーでリュードベリ状態へと励起し電子構造の対称性が破れた電子波束を生成した。この電子波束は周期1フェムト秒ほどの超高速振動運動を開始する。2発目のレーザーパルスの照射タイミングを掃引しながらラムゼー干渉信号を測定し約0.94という高いコントラストを得た。これによって、適切なタイミングにおいて対称性が回復していることを実証した。この成果を論文にまとめ投稿した。
3: やや遅れている
本年度は、私たちが開発した極低温リュードベリ原子集団に対するアト秒精度のコヒーレント制御技術が、対称性の破れという物理学において極めて重要な研究の一つに適用可能であることが判明したため、実験装置の制御性改善を行うと同時に関連研究としてこの実験を行った。ルビジウム原子の基底状態(S状態)の電子構造は高い対称性をもつ。このルビジウム原子集団を光双極子トラップ中に捕捉し、これをピコ秒パルスレーザーでリュードベリ状態(D状態)へと励起し電子構造の対称性が破れた電子波束を生成した。この実験においては各原子を孤立系として扱う必要があった。そのために、光双極子トラップ中の原子集団について、その原子数および原子数密度を精密に制御する技術を確立した。また、励起パルス光強度の最適化を図り、この実験に要求される実験パラメータを詳細に検証した。その結果、遅延時間50ピコ秒付近において周期約1フェムト秒のラムゼー干渉信号を測ったところ、約0.94という高いコントラストを得た。このラムゼー干渉に用いた2発の位相ロックされたレーザーパルス対の安定性は約3アト秒であった。これによって、アト秒精度でパルス制御を行い、かつ適切なタイミングにおいて対称性が回復していることを実証した。本年度確立した光双極子トラップ中の原子集団の制御、およびアト秒精度の光パルス制御は当初の目的である強相関リュードベリ原子集団における量子多体ダイナミクスのより深い理解に繋がるものである。
今後は、当初の目的どおり私たちがこれまでに開発してきた強相関リュードベリ原子集団の励起、および観測・制御手法を数100nmというマクロなサイズに渡って振動運動する複数のリュードベリ状態からなる電子波束に応用する計画である。具体的には、以下の(a)および(b)の研究を行う。(a) 複数のリュードベリ状態からなる電子波束を生成し、原子間の多体相互作用の影響下において、波束のダイナミクスを観測・制御する手法を確立する。これまで励起パルスは理論解析の簡便さから、そのスペクトル幅をカットし単一のリュードベリ状態を励起していた。実際にはこのスペクトル幅は自在に制御することができ、波束に含まれるリュードベリ状態の数を調節することができる。このようにして生成した波束について、励起状態の主量子数や原子数密度・ポピュレーションを調節しながら詳細に測定を行い、波束ダイナミクスを観測・制御する手法を確立する。(b) これまでに発展させた理論解析手法(C. Sommer, N. Takei et al., Phys. Rev. A 94, 053607 (2016))を応用し、上記(a)の実験結果について新たな理論モデルを構築して強相関リュードベリ原子集団における量子多体効果をより良く理解する。これまでの理論モデルは単一のリュードベリ状態しか扱うことが出来なかった。これを複数のリュードベリ状態を含んだ波束の場合に展開し、実験結果の詳細な検証を試みる。
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