研究課題/領域番号 |
17K14367
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小林 拓実 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (40758398)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光時系 / Yb光格子時計 / 不確かさ評価 / 絶対周波数計測 |
研究実績の概要 |
本研究のテーマは次世代の時刻供給を担う連続稼動可能で高安定な光時計(レーザーの光周波数を基準とする時計)の開発である。現状では、マイクロ波時計である水素メーザーが時刻を供給しているが、これに変わる光時計の開発し、より安定な時系を構築することが最終目標である。候補として、ヨウ素安定化レーザー、高安定光共振器にロックしたレーザー、原子ビーム時計を提案した。現在では、原子ビーム時計が良い候補と考えている。 一方で、フランス標準研SYRTEなどで研究されているように、将来のSI秒定義(1次周波数標準)の候補となっている光格子時計の連続運転ができると魅力的である。そのため、今年度では、光格子時計の連続運転の可能性に関する研究を行った。 光格子時計は多数の光源から構成される複雑な装置である。そのため、周波数安定化レーザーの堅牢性の向上、システムの小型化および省電力化を行うことが重要である。長期運転に向けて、Yb原子を使った光格子時計を新たに開発することにした。Yb光格子時計は、Sr光格子時計の場合に比べて、レーザーの数を減らすことが可能で、長期運転の観点から魅力的である。 光格子時計の装置開発および、光格子時計としての動作確認を行った。まず、光格子中への原子の捕獲、時計遷移の観測に成功した。時計の不確かさ評価、絶対周波数計測を行った。時計の連続運転時間は、数時間程度であるが、これを毎日行うことができるレベルになった。実際、1ヶ月程度の連続運転に成功した。 今年度に得られた結果は、国内学会、国際学会で発表した。また、論文投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、主にYb光格子時計の装置開発を行った。まず、光格子時計の環境整備からスタートした。運転専用の部屋の中で時計を構築し、部屋外から時計を監視、制御できるようにした。Yb光格子時計では、レーザー光源が5個必要になるが、5個のすべての光源をモード同期Er添加光ファイバーレーザーをベースにした光周波数コム安定化した。この光周波数コムは数ヶ月にわたって動作することが可能で、長期運転の観点から優れている。狭線幅が要求される光源(冷却用光源、時計遷移励起光源)に関しては、狭線幅コムを用いて、高安定共振器に安定化したマスターレーザーの線幅を他のレーザーに転送することで得ることができた。これらの工夫によって、レーザーシステムをシンプルにすることができ、長期運転に適した系を構築できた。 不確かさ評価では、光格子によるACシュタルクシフト、黒体輻射シフト、原子間衝突シフト、ゼーマンシフト、時計レーザーによるACシュタルクシフトなどを評価した。不確かさ評価の結果、主に光格子によるシフト、黒体輻射シフトで制限されることがわかった。現在よりも安定な時系の構築という目標においては十分な不確かさであることを確認した。また、絶対周波数計測を国際原子時TAIにつなげることで行った。時計遷移の絶対周波数は、当研究所の過去のデータおよび他の機関で測定された値と一致することを確認した。絶対周波数計測の不確かさは時計を動かしていない時間から生じるデットタイムの不確かさが支配的であり、稼働時間を長くすることでより小さくできることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
Yb光格子時計のこれまでの最高連続運転時間は6時間程度である。これ以上の運転を続けるためには、光源のロックが落ちた際のリロック作業のために、人間が装置を監視する必要がある。この方法で、原理的には24時間以上の連続運転も可能だが、人間の負担を減らすことが重要であるし、現実的な方法とはいえない。例として、フランス標準研SYRTEで取り入れられている自動的にリロックをするシステムの開発を検討している。 不確かさは光格子によるシフト、黒体輻射シフトで制限されることがわかった。これらの不確かさを改善することは標準研として重要な仕事であり、引き続き研究を進める予定である。光格子によるシフトは、光格子レーザーのパワーが高いことが原因になっており、パワーを下げた状態でも十分な原子数を捕獲できるようにすることで改善できると期待される。黒体輻射シフトは、レーザー冷却に用いる磁場発生用コイル(真空中においている)に電流を流す時間が比較的長く、そこから発生する熱が問題になっている。そのため、電流を流す時間を極力短くする予定である。また、長期的にはクライオ環境下に原子を置く方法を採用したい。これは理化学研究所で用いられている方法である。 同時並行で、原子ビーム時計の開発を進めていく。まずは、当研究所のSr光格子の真空装置を使って実験を行う。原子オーブンを加熱し、熱ビームを生成する。熱ビームの進行方向に対して垂直な方向から689 nmレーザービームを照射し、レーザー光の共鳴と脱励起により原子から発生する蛍光を検出する。ラムゼー分光法を採用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、提案した原子ビーム時計の開発を行う前に、将来のSI秒定義の候補である光格子時計の開発をメインに行ったため、原子ビーム時計の開発に必要な費用を次年度に繰り越すことにした。次年度では主に原子ビーム時計のフィージビリティスタディに予算を使う予定である。
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