本研究のテーマは次世代の時刻供給を担う連続稼動可能で高安定な光時計の開発である。現状では、マイクロ波時計である水素メーザーが時刻を供給しているが、これに変わる光時計を開発し、より安定な時系を構築することが最終目標である。米国標準研NISTで、Ca原子を用いたビーム型時計の実証に成功したと報告があった。この研究では、システムの温度の安定性の重要性が指摘されていた。当グループ保有の真空チェンバーシステムの温度変動をモニターしたところ、数℃の温度変動が見られた。これを<1℃に抑えることが重要であるが、簡単には改善できないと判断し、研究計画に記載の通り、Yb原子を用いた磁気光学トラップを用いた時計の開発へシフトすることにした。
昨年度までに、月間稼働率80 %程度で、安定して磁気光学トラップを維持できるようになった。今年度は、問題の1つであった399 nmのファイバーの損傷の対策を行った。短波長の光はファイバー端面にダメージを与えやすく、これまで10日間に1回の頻度でファイバーを交換していた。今回、可能な限りファイバーの数を減らし、エンドキャップファイバーを用いることにした。また、ファイバーの融着部をなくし、ファイバー長を短くした。これらの改善を行った後、約2ヶ月のテストを行い、ファイバーの透過率減少の時定数が長くなったことを確認した。2ヶ月程度であれば、交換する必要がなくなった。
もう一つの問題として、1112 nmの半導体光アンプの寿命が短い問題があった。これまで光アンプの温調が不完全だったが、熱伝導率の高い材料を光アンプの間に入れることで、温度が設定値と一致し、変動がなくなった。この結果、約2ヶ月のテストにおいて、光アンプの出力減少の時定数が長くなった。温調が原因だったのかは、もう少し検証を行う必要があるが、光アンプを2ヶ月で交換する必要がなくなった。
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