研究課題
本研究では 、「化学刺激による膜の平均曲率とガウス曲率の制御」をコンセプトに、化学刺激による機能性膜変形の再現及びそれら膜変形の統合を i: 化学種と脂質 相互作用がもたらす膜変形の系統的理解,ii: 化学刺激と相分離の結合による膜輸送経路の構築, iii: 自己生産系及び化学反応との結合 の三段階において進めている。また、この結果を膜弾性理論モデルと比較することにより、生体機能に伴う膜変形を実現している物理的基盤を明らかにすることを目的としている。この目的達成のための第一段階として、平成29年度は i: 化学種と脂質 相互作用がもたらす膜変形の系統的理解 を遂行した。具体的には、様々な脂質(アニオン性,中性,カチオン性)から成るベシクルに対して、1~3価の金属イオンを化学刺激として与えた場合に見られる膜変形を観察し、観察された膜変形から化学刺激が脂質にもたらす幾何学的形状の変化を系統的に分類した。この中で特に、特定のアニオン性脂質に二価の金属イオンを化学刺激として与えた場合に膜接着が観察され、さらに三価の金属イオンを化学刺激として与えた場合には膜融合が観察されることがわかった。細胞レベルでの代謝においては、生体膜同士の接着及び融合を通して外部から物質を取り込み、内部でエネルギーや情報分子,膜分子などを合成し、不要となった物質を膜に孔を開けるなどして排出する。このように、膜接着及び膜融合は生命の基本機能である代謝における入り口として重要な役割を担う膜変形である。本年度、特定のアニオン性脂質から成るベシクルに特定の化学刺激を与えることによって、この代謝経路の入り口となる膜接着・膜融合を再現することに成功したことは特筆に値する。
2: おおむね順調に進展している
申請書作成当初の予定として平成29年度に遂行予定であった研究を滞りなく遂行し、一定の成果を得ているため。
今後は、平成29年度の成果として得られた様々な膜変形を画像解析し、これをもとに膜弾性の物理モデルと比較することで、化学刺激が脂質の分子形状に及ぼす変化を定量的に明らかにする。また、二種類以上の脂質から成る多成分ベシクルが相分離した状態において、平成29年度と同様の実験を行なう。相分離によって膜面上で異なる化学物質感受性を持つドメインが共存しているという特徴を利用して、同一ベシクルにおける複数の機能性膜変形の再現が可能であると考えられる。このようなベシクル膜面上での複数の機能性膜変形の実行から、接着・融合・孔形成・部分分裂など 膜輸送経路の素過程の統合を試みる。特に二成分ベシクルでのガウス曲率弾性率の非対称性を化学刺激で強調させることによるベシクル分裂の実現が期待される。さらに、膜輸送経路を膜の成長・分裂を繰り返す自己生産系と結合させる。膜輸送経路の素過程でもある膜接着・融合によってベシクルに新たに膜分子を供給し、成長させる。さらに、化学刺激による膜分裂を再現し、個体数を増やす。これによりベシクルの成長・分裂し化学刺激に対する感受性を保ちながら持 続的な増殖が可能になることが期待される。このように、自己生産系と化学刺激による膜変形系を結合させ、生命系に近いベシクルシステムへの展開をソフトマター物理 観点から目指す。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Biomembranes
巻: in press ページ: in press
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Soft Matter
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http://www.bio.phys.tohoku.ac.jp/achieve_soft.html