研究課題/領域番号 |
17K14368
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐久間 由香 東北大学, 理学研究科, 助教 (40630801)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ベシクル / 化学刺激 / 膜変形 / 分子形状 |
研究実績の概要 |
本研究では 、「化学刺激による膜の平均曲率とガウス曲率の制御」をコンセプトに、化学刺激による機能性膜変形の再現及びそれら膜変形の統合を進めている。また、この結果を膜弾性理論モデルと比較することにより、生体機能に伴う膜変形を実現する物理的基盤を明らかにすることを目的としている。 この目的達成のための第一段階として、平成29年度は様々な脂質(アニオン性,中性,カチオン性)から成るベシクルに対して、1~3価の金属イオンを化学刺激として与えた場合に見られる膜変形を観察し、観察された膜変形から化学刺激が脂質にもたらす幾何学的形状の変化を系統的に分類した。この中で特に、アニオン性脂質に三価の金属イオンを化学刺激として与えた場合には、その濃度が低い時に膜接着,高い時に膜融合が観察されることがわかった。 前年度の成果を踏まえ、平成30年度は引き続きアニオン性脂質を含むベシクルに化学刺激を与えて局所的な膜変形の再現を試みた。この結果、化学刺激として一価,二価の電解質をアニオン性脂質を含むベシクルに与えると、膜が化学刺激源であるマイクロピペットの先端に向かって伸び,チューブ構造を形成することがわかった。これは、化学刺激によってベシクルの周囲が局所的に電解質溶液となり、帯電しているベシクルが電気泳動と同じ原理で化学刺激源に引き寄せられているために起きているということがわかってきた。 生命はエネルギー源を求めて移動し、それを体内に取り込んでエネルギーや膜分子を合成し、不要物を排出するという代謝を行なっているが、本研究ではベシクルへの化学刺激を一,二価の電解質にすることで泳動を(平成30年度成果)、三価にすることで膜接着,膜融合という物質を体内に取り込むための現象を(平成29年度成果)再現することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書作成当初の予定として平成30年度までに遂行予定であった研究を滞りなく遂行し、一定の成果を得ているため。
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今後の研究の推進方策 |
平成29,30年度までと同様にアニオン性脂質を含むベシクルに化学刺激を与え、代謝経路の出口となる膜面状での孔形成の再現を試みる。その結果を踏まえ、それまでの成果として得られた様々な膜変形を画像解析し、これをもとに膜弾性の物理モデルと比較することで、化学刺激が脂質の分子形状に及ぼす変化を定量的に明らかにする。 さらに、二種類以上の脂質から成る多成分ベシクルが相分離した状態において、これまでと同様の実験を行なう。相分離によって膜面上で異なる化学物質感受性を持つドメインが共存しているという特徴を利用して、同一ベシクルにおける複数の機能性膜変形の再現が可能であると考えられる。このようなベシクル膜面上での複数の機能性膜変形の実行から、接着・融合・孔形成・部分分裂など 膜輸送経路の素過程の統合を試みる。特に二成分ベシクルでのガウス曲率弾性率の非対称性を化学刺激で強調させることによるベシクル分裂の実現が期待される。 さらに、膜輸送経路を膜の成長・分裂を繰り返す自己生産系と結合させる。膜輸送経路の素過程でもある膜接着・融合によってベシクルに新たに膜分子を供給し、成長させる。さらに、化学刺激による膜分裂を再現し、個体数を増やす。これによりベシクルの成長・分裂し化学刺激に対する感受性を保ちながら持 続的な増殖が可能になることが期待される。 このように、自己生産系と化学刺激による膜変形系を結合させ、生命系に近いベシクルシステムへの展開をソフトマター物理の観点から目指す。
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