本研究では 、「化学刺激による膜の平均曲率とガウス曲率の制御」をコンセプトに、化学刺激による機能性膜変形の再現及びそれら膜変形の統合を進めている。また、この結果を膜弾性理論モデルと比較し、機能性膜変形の物理的基盤の解明を目指している。 生命はエネルギー源を求めて移動し、それを体内に取り込んでエネルギーや膜分子を合成し、不要物を排出するという代謝を行なっている。本研究では、一価,二価の電解質をアニオン性脂質ベシクルに与えると、ベシクルの周囲が電解質溶液となり帯電しているベシクルが電気泳動と同じ原理で化学刺激源に引き寄せられる泳動を(平成30年度成果)、三価の金属イオンを化学刺激として与えた場合には、三価イオンが膜の張力を制御し、その濃度によって膜接着と膜融合という物質を体内に取り込むための機能性膜変形の制御に成功した(平成29年度成果)。 令和元年度は、同一ベシクルでの泳動・接着・融合の機能統合を試みた。多成分ベシクルが相分離し、膜面上に異なる化学物質感受性を持つドメインが共存する状態のベシクルに化学刺激を与える実験の中で、化学刺激の流れによって膜に流動場が誘起されることを見出した。膜の流動性は生体機能を制御するパラメータの一つであるが、これまで膜組成と流動性の指標である膜粘度の関係を、膜の曲率を考慮した上で広範囲で測定する手段が無く未解明のままであった。今回、局所的な水流が球状ベシクルに流動を誘起することを見出したことで、球状膜の流動場を記述した理論モデルを実験的に再現することが可能となった。本研究代表者が新たに開発した測定手法で多成分ベシクルの組成比を様々に変化させた際に膜粘度がどのように変化するかを調べた結果、三種類の脂質からなるベシクルの組成比を変化させると膜粘度が3桁にもわたる広範囲で変化するということを世界に先駆けて明らかにすることができた。
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