研究実績の概要 |
平成30年度では、(1)局在化振動モードの特性・起源を明らかにした、(2)音波輸送特性の異常性を局在化振動モードから理解した、(3) (1),(2)を記述する理論を、弾性不均一性の概念を基盤にして構築したの3つの成果を出した。 具体的には、(1)では局在化振動モードの振動状態、また局在化領域の大きさといった特性を、分子シミュレーションによって明らかにした。局在化領域では分子振動はエネルギー的に不安定なものであるが、それを周りの分子振動が支えているという振動状態であることが分かった。(2)ではガラス中を伝搬する音波の特性を、分子シミュレーションによって明らかにした。特に連続体極限に達するような低周波数域においても、ガラスの音波は強く散乱するが、その散乱が局在振動に起因していることが分かった。すなわち、低周波数域ではガラスは局在化振動という欠陥がある弾性体として振る舞うことが分かった。さらに(3)では、(1)と(2)において明らかになったガラスの振動物性を記述する理論を構築した。これまでに構築された理論では、局在化振動を記述することができなかった。今回、弾性不均一性の概念を用いて、弾性率が空間中を揺らいだ弾性体方程式から出発して、有効媒質近似を適用することによって、現象論的に局在化振動を捉える理論を構築することに成功した。さらには、強く散乱される音波特性の記述にも成功した。 (1)と(2)に関しては海外学術雑誌の論文として出版した。(3)に関しては現在、論文を執筆中である。また、これらの結果を国内・外の学会で発表を行った(合計10件、うち招待講演6件)。 さらに本研究成果をより現実に近い系、具体的には高分子、ダイマー分子からなるガラスへと展開することができた。いずれも論文執筆中である。
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