断熱型熱量計を用いてメソポーラスシリカ細孔中のトルエン(細孔直径2.1 nm,2.9 nm,3.0 nm,5.5 nm,7.1 nmの5種類)について測定した。使用したメソポーラスシリカはすべて自身で合成した。細孔径5.5 nmや7.1 nmでは、トルエンの動的な凍結であるガラス転移が観測された。一方、細孔径2.1 nmや細孔径2.9 nmでは、試料の挙動は、ベンゼンで測定した配置構造の安定化(分子配置の基底状態の実現)と動的なガラス転移の競合する様子が観察された。 また、細孔径5.5 nmや7.1 nmでは、150 K付近に熱容量の異常が観測された。この現象について明らかにするために、充填率を変えて、細孔径3.9 nmと7.1 nmについて、再度測定した。充填率が80%で、細孔外にバルク成分を含んでいない試料では150 K付近の熱意異常が観測されなかった。このことから、細孔内のトルエンの温度の低下にともなう体積の収縮によって、細孔外のトルエンが細孔内部に移動する現象が起こることが示唆される。この現象は、低温で膨張する水においては観測されない現象である。 これらの実験結果については2018年11月の第54回熱測定討論会において「メソポーラスシリカ細孔内のトルエンのガラス転移挙動」という題目で発表した。 前年度より、継続していた蒸気圧測定装置は、試料容器をO-リングでシールしていたことによる空気漏れが1日に1 cc程度あった。シール部分をインジウムに変更するため、試料容器を改造した。また、ゲージポートを直接圧力計に接続し、ハンダでシールした。これにより、空気漏れが完全に止まった。 クライオスタッドについては、温調部分の回路の設計・製作を行った。出力の大きさから難航したが、ヒーター、恒温槽の再設計により問題が解決した。現在、ほぼ完成に近づいている。今後、測定を開始する予定である。
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