研究課題/領域番号 |
17K14374
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
夏目 ゆうの 日本女子大学, 理学部, 助教 (10706831)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ソフトマターの物理 / 生物物理 / ベシクル / コロイド粒子 / 排除体積効果 |
研究実績の概要 |
細胞は、細胞膜の内部に細胞小器官や生体高分子といった細胞内包物を高密にもつ。このこみあい状態を緩和するようエントロピー増大の効果が働き、生体高分子の構造形成や内包物の秩序形成といった生命機能を発現していることが明らかになりつつある。そこで本研究は、生体膜の内部に生体高分子がこみあっている状態を、剛体球粒子を高密に内包するベシクル(脂質2分子膜の小胞)系でモデル化し、細胞膜のトポロジー変化の再現を試みることを目的とした。 粒子内包型ベシクルを作成するため、油中水滴遠心沈降法を用いた同一のプロトコルで、蛍光分子から直径1マイクロメートルの蛍光性ポリスチレンビーズに至るまで幅ひろいサイズの物質を封入したベシクルを調製することに成功した[Y. Natsume, et. al., J. Vis. Exp.,2017] 。この手法で調製したベシクルは分散液中で安定な球形をとる。そこで、膜変形を誘起するために、ベシクル膜面積が増加するように、膜分子前駆体を添加した。膜分子添加後、数十分でベシクル膜が揺らぎはじめ、粒子内包型ベシクルの変形を得た。ベシクル径に対して約1/10の径のビーズを内包したベシクルにおいて、球形ベシクルがより小さな複数の球形ベシクルに変形するという凸形成が観察された。さらに、ベシクル径に対して約1/100の径のビーズを内包したベシクルにおいて、膜の一部が内側に落ちくぼむ凹変形が観察された。サイズの異なる剛体球粒子をベシクルに内包することで、実験的に膜のトポロジー変化である凹形と凸形の膜変形を再現した。 また、サイズの異なる2種の粒子を内包したベシクルにおいて、より小さな粒子がベシクル膜近傍に偏在する現象を得た。この現象を粒子間及び粒子と膜間のエントロピックな相互作用である排除体積効果の観点から、解析・考察し、学会発表を行った。これらの成果をまとめ、論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、目的である「膜内外のこみあいと膜変形挙動の相関」を解明するために、4つの系において球状コロイド粒子の分散あるいは高分子鎖の密度と膜変形挙動の相関を明らかにすることを計画している。2017年度は、1つ目の「球状コロイド粒子内包ベシクル」において、サイズの異なるポリスチレンビーズをベシクルに内包することで、実験的に膜のトポロジー変化である凹形と凸形の膜変形を得た。この実験を行うなかで、ベシクル内に粒子が占める体積分率と膜変形の相間もみられたため、より内包物の状態をコントロールしたベシクルを作成する必要が生じた。そこで、本助成によりマイクロ流路を用いて油中水滴エマルションを作成するドロプレットジェネレーターを導入した。これによって、内包物の体積分率をコントロールして油中水滴エマルションを作成することができた。油中水滴遠心沈降法と組みあわせることで、より定量性の高い実験結果が得られることが期待される。 サイズの異なる2種の粒子を内包したベシクルにおける小粒子の偏在現象においては、剛体球粒子間及び剛体球粒子と膜間の排除体積効果を加味して、小粒子の偏在による自由エネルギー利得を評価した。蛍光顕微鏡画像から小粒子と大粒子の分布を解析したところ、本系では、小粒子が偏在することが妥当であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
「球状コロイド粒子内包ベシクル」について、ドロプレットジェネレーターを用いて油中水滴エマルションを作成し、作成したエマルションを油中水滴遠心沈降法でベシクルにすることを試みる。油の種類や試料にかかる遠心力を調節することで、これを実現する。さらに、高分子鎖を膜に担持したベシクルを油中水滴遠心沈降法で調製し、膜分子前駆体を添加する。 膜のトポロジー変化である凹形と凸形をともに説明する熱・統計力学的モデルを検討する。具体的には、次の方法を用いて、凹凸膜変形における自由エネルギーの変化量を見積もる予定である。2017年度に2種粒子内包型ベシクル系において、膜と粒子間の排除体積効果を見積もるため、ビーズの並進運動が制限される領域(排除体積)を幾何的に計算した。このとき、膜形状が変化しないことから簡単のため膜の曲率を0と仮定したが、凹凸膜変形を扱うにあたって、膜の曲率が正と負の場合について排除体積の幾何的な見積もりを行う。同じく2種粒子内包型ベシクル系において、数百個程度の内部粒子に対して、その熱・統計力学的効果を加味することが妥当であることがわかったため、大粒子を内包した凸形成ベシクルと小粒子を内包した凹変形ベシクルの両者の内部粒子に対して同様にその粒子間の排除体積効果を扱うことを検討している。
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