細胞内部には、生体高分子鎖や細胞小器官が高密に閉じこめられている。こみあった環境下のため、内包物がより大きな自由体積を得るように自身や周囲の構造を変化させるエントロピックな相互作用が、様々な生体機能の発現に寄与していることが近年明らかになりつつある。本研究では、球状コロイド粒子あるいは高分子鎖を高密に内包するベシクル(脂質2分子膜の小胞)において、内包物とベシクルの膜変形の相関から、内包物が膜変形に及ぼすエントロピックな作用を明らかにする。将来的には、細胞膜と内包物、異種の内包物と内包物間の相互作用が協同し、高次機能を発現する細胞モデルの構築を視野にいれた研究へとつなげることを目的としている。 補助事業期間の1から3年目において、膜分子前駆体の添加により、コロイド粒子内包ベシクルの分裂現象を高い頻度で得ることに成功した。これら分裂現象について、定量的な解析手法を検討し、内包されたコロイド粒子の体積分率と膜分子前駆体の添加によるベシクル膜面積の増加の相関を定量化する画像解析を行った。4年目である2020年度は、高分子鎖を内包したベシクルの調製を行った。分裂現象を示すコロイド粒子の体積分率と同程度の密度で高分子鎖をベシクルに内包することが難しく、油中水滴遠心沈降法においてベシクル分散液の粘度を変えることで、遠心時にベシクルにかかる抵抗力を調整し、様々な条件で高分子鎖を内包したベシクルの調整を試みた。
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