研究課題/領域番号 |
17K14375
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岩城 光宏 国立研究開発法人理化学研究所, 生命システム研究センター, 上級研究員 (30432503)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミオシン / DNAナノテクノロジー / 筋肉 / 1分子計測 / モータータンパク質 / ナノバイオ |
研究実績の概要 |
本研究では、筋肉の収縮単位であるミオシンフィラメントをDNA ナノテクノロジーを駆使してデザインし、フィラメント内部のモーター分子群の動態や運動相関を1分子レベルで解析するのが目的である。本年度では、独自に作成した人工ミオシンフィラメントをアクチンフィラメント上に固定し、フィラメント内の筋肉ミオシン分子1個の動作を精密に測定することを行った。 ミオシン分子1個の動態を1nm, 数十マイクロ秒の時空間分解能で観察するために、金ナノ粒子をミオシン近傍にラベルし、マイクロミラータイプの全反射照明顕微鏡を構築した。この光学設計により、40マイクロ秒の時間分解能で0.5 nm (ガラス固定した金粒子位置の標準偏差)を得ることができた。ミオシン近傍にラベルした金ナノ粒子の動きを観察したところ、ATP存在下でノンプロセッシブな一方向運動が観察され、ATP濃度に依存してアクチンへの結合時間の変化が見られた。さらに、蛍光ATPとステップ運動との同時観察も行い、ミオシン由来の運動を観察している確認を取ることができた。従来の光ピンセット法を用いた1分子計測においては、ミオシンよりも20倍以上大きいプローブが必要であり、応答時間の遅さや回転弾性に起因するミオシン運動の検出限界が存在するが、本研究で開発した手法ではミオシン分子と同程度の40nm金粒子をbifunctionalに固定しているため、運動素過程を詳細に観察できると期待している。 今後は、観察条件のさらなる最適化を行い、フィラメント内の分子動態素過程を詳細に解析する予定である。また、フィラメントのすべり運動中に、複数のミオシン分子動態観察を行い、ミオシン分子間の運動相関を解析する準備も進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、従来の1分子計測手法ではハイスループットでの計測が難しい、モーター分子運動素過程を詳細に観察する新たな実験系開発が含まれている。DNAナノテクノロジーを組み合わせた新規性の高いストラテジーであり世界でも類を見ない。そのため、様々な困難が予想されたが、当該年度における目標であった、ミオシンフィラメント内部のミオシン1個の運動素過程観察をすでに実現することができたため、おおむね順調に進展していると考えている。実験条件のさらなる最適化を進めることで、従来の手法では観察できなかったイベントを捉えることができると期待している。 また、本研究の手法の利点である、ミオシンフィラメント内部の複数の分子運動動態観察を可能にするためのストラテジーも確立しているため、おおむね研究計画通りに伸展している。
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今後の研究の推進方策 |
フィラメント内部のミオシン1個の運動素過程観察においては、前年度に引き続きデータの取得と解析作業を進める。本研究の時間分解能では、従来の手法では検出できなかった、ミオシンアクチン間の弱い相互作用とみられる結合も観察している可能性があるので、ミオシンのブラウン運動と弱い相互作用、力発生の素過程を客観的・定量的に解析するための統計的手法(隠れマルコフモデルなど)を用いて進めていく。 フィラメント内部のミオシン分子間の運動相関については、量子ドットの多色観察によって解析が可能になるため、ラベル方法の最適化などを進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)年度末近くになって購入予定だった試薬(人工ミオシンフィラメント作成用の合成オリゴ)の納入遅延が判明し納入に年度をまたぐ可能性がでて、発注をキャンセルしたため。 (使用計画)次年度始めに試薬を購入し人工ミオシンフィラメント作成を行い、実験を遂行する。
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