SiO2成分に富むマグマ(珪長質マグマ)は,マグマ溜まりでは高いH2O濃度を有するため,上昇すると激しく発泡し,極めて危険な爆発的噴火を起こしやすい.しかし実際には,しばしば爆発を回避し,溶岩流や溶岩ドームを穏やかに流出させるような噴火が多く起こる.そして,溶岩はすでにH2Oをほぼ完全に失っている.このことから,上昇中にマグマは発泡したのち,極めて迅速にガスが失われる仕組みが働いていると考えられているが,その実態は長い間不明であった.本研究では,マグマが発泡したりガスが失われたりする際,メルト中に揮発性成分濃度の不均質が作られるという点に着目し,石基の揮発性成分濃度の不均質を調べることで,かつての発泡やガスの散逸過程を解明しようと考えた.このとき,拡散が極めて遅い塩素成分であれば,不均質が消えず長時間残ると考えた.そこで,伊豆諸島・新島の向山溶岩を対象に,石基ガラスの塩素濃度の空間分布を詳しく調べた結果,石基中の塩素濃度は極めて不均質であることを発見した.不均質を詳しく解析した結果,これはかつて存在した気泡やガス通路の痕跡を反映することが判った.また,塩素の不均質分布を対象として塩素拡散脱ガスの計算を適用することで,気泡成長の時間スケール,ガス通路の維持時間,通路の形成,消滅の仕組みなどを詳しく知ることができた.この手法は,すでにガスを失っている岩石の中に,かつてのガスの動きや滞在の記録が克明に残っていることを発見したものであり,今後の噴火研究において新しい道具になると期待される.
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