研究課題/領域番号 |
17K14378
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
道越 秀吾 京都女子大学, 現代社会学部, 助教 (60572229)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 太陽系 / 小惑星 / リング / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
2014年に土星と天王星の間の軌道を周回する小惑星カリクロの周囲に,二重リング構造の存在が確認された.惑星以外では初めて確認されたリング構造である. 本研究の目的は,理論や数値シミュレーションによる,小惑星リングの詳細な構造や形成過程および維持されるメカニズムを検討することである.これまでの我々の研究で,二重リングの大規模N体シミュレーションにより,リング粒子の密度と小惑星本体の密度が同じ場合,極めて短時間でリングが分裂することが分かった.リングが短時間で分裂しないためには,リング粒子密度が小惑星密度の50%より小さくなくてはならない.つまり,中心天体とリングで物質組成が違っており,これは,この系の形成過程に対して示唆を与える結果である.しかし,リング粒子密度が小さくで短時間の分裂が避けられても,環に自己重力ウェイク構造という微細構造が生じることが分かった.同様の構造は土星の環に存在していると考えられており,その場合,リングの粘性拡散が飛躍的に早まる.その拡散が進行する時間尺度の見積もりは,先行研究で想定されてきたリング年齢に比べて著しく早い.実際は顕著なリング拡散は生じていないと考えられるため,なんらかの拡散を抑える機構が必要となる.そのため十分な質量の未発見の衛星が存在すれば,リング拡散が抑えられている可能性があることを指摘した.また,このリングは二重リングとなっており空隙で隔てられている.空隙は粘性拡散によって消失するはずであるが,はっきりと残っているため,二重リングが形成維持される機構が働いていることが想定される.これも同様に衛星との相互作用によって生じている可能性がある.そこで,次のステップとして環と衛星の相互作用の理論およびシミュレーションによる研究を開始した.環の近傍に衛星をおいた場合の環の進化やその際に生じる構造について調べている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度以降の計画は,リング近傍の衛星の効果を検討することである.2019年度は,衛星・リング相互作用に関するシミュレーションの研究に着手し,シミュレーションコードを構築の上,試行的な計算を繰り返している.しかし,研究成果をまとめるための最終的な結果が得られておらず,シミュレーションやその解析手法,理論的解釈なども含めて現在研究が進行中である.これらは,当初予定していた計画からやや遅れているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの我々の研究により,リングの物質密度で表されるリングが分裂しない条件が得られた.しかし,分裂しない場合でも,自己重力ウェイク構造という複雑な微細構造が生じ,リング拡散が飛躍的に早まることも併せて判明した.リングの年齢は形成論的な観点から100万年以上であることが推測される.一方で,自己重力ウェイク構造によって数100年程度の時間で拡散するため,リング年齢と矛盾が生じる.そのため,何らかの効果によって,リング拡散が抑えられていると考えられる.その候補の1つはリング近傍の未発見の衛星である.衛星による拡散の抑制については,理論研究が行われているものの,数値シミュレーションによる研究が行われていない.また,研究実績にも述べたように空隙が存在し二重リングになっていることも衛星が関係している可能性がある.しかし,昨年度までの研究で,二重リングの起源とリング拡散の抑制効果を同時に扱うことは理論的にもシミュレーション的にも容易ではなかった.そのため,今年度は方針を変えて,二重リングは次の段階の研究として,まずは拡散抑制効果に絞った研究計画を行っていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,追加の計算サーバおよび解析サーバを年度内に導入する予定であった.しかし,実際は,シミュレーションの研究の進捗がやや遅れたため,年度内に当初予定していた規模のファイルサーバや計算サーバが必要な状況ではなかった.そのため,年度中に一部のサーバ群の購入を見送っため,繰越金が生じた.次年度では,数値シミュレーションを実施し,その結果の解析のためのサーバおよびデータ保管用のファイルサーバを導入する予定である.
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