研究課題/領域番号 |
17K14382
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研究機関 | 国立研究開発法人防災科学技術研究所 |
研究代表者 |
武村 俊介 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波防災研究部門, 特別研究員 (10750200)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 地震波伝播 / 地震動シミュレーション / 断層近傍不均質 / 強震動 / 地震波散乱 / 地震発生帯 |
研究実績の概要 |
本研究では、防災科学技術研究所の基盤的地震観測網により観測された地震波の伝播特性に着目し、主に地殻内の不均質構造と震源断層近傍に局在する特徴的不均質構造が地震動伝播に与える影響を調べ、地震動シミュレーションにより観測された地震動の特徴をモデル化することで、地震発生帯構造不均質を明らかにし、強震動を含む広帯域地震動シミュレーションの高度化に資することを目的とする。 本年は、中国地方を対象として、地殻内地震の最大振幅とその方位角変化の周波数・距離変化の特徴と地震動シミュレーションにより、中国地方の地殻内の数 km以下の地震波速度の不均質と内部減衰のモデルパラメータを推定した。これらのモデルパラメータは震度を含む、広帯域地震動伝播を説明する上で、非常に重要である。推定したパラメータの妥当性を検討するため、それらを用いた強震動シミュレーションを行った。シミュレーションの結果、中国地方で発生した地殻内地震の最大振幅分布、最大振幅の距離減衰とS波コーダの特徴を再現することに成功し、強震動予測への応用可能性を示した。 地殻内の短波長速度不均質構造の地域差や断層近傍不均質の影響を調べるために、余震活動を含め地震活動の活発な2016年熊本地震の震源域で発生した地震について、最大振幅とその方位角変化の周波数・距離変化を解析した。観測記録の解析の結果、熊本地震の震源域では中国地方に比べて、地震波伝播が複雑であり、強い不均質構造が存在していることが明らかとなった。これらの不均質構造は従来の地震動シミュレーションでは考慮されてこなかったため、その影響の調査やモデル化手法の提案が今後の重要な課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの中国地方の地殻内地震による検討を推し進め、地殻内の平均的な短波長速度不均質構造および内部減衰のモデルパラメータの推定に成功した。推定の際に、従来まで広く持ちられてきた簡便な手法ではなく、地震動シミュレーションを活用して推定したことは、世界中を見ても例がない。また、推定したモデルパラメータを全国1次地下構造モデル(Koketsu et al. 2012)の地殻内に一様に付与した強震動シミュレーションでは、観測された地動最大速度振幅、距離減衰および地震波形エンベロープ形状をよく再現することに成功し、広帯域地震動伝播のモデル化手法の基礎を完成させた(Takemura et al. 2017)。 Takemura et al. (2016, 2017)の中国地方での検討を熊本地震の震源域周辺に拡張した。2016年熊本地震の震源域周辺で発生した地震の解析では、中国地方と比べて最大振幅分布の周波数・距離変化特性が崩れやすい傾向にあり、不均質構造の地域差が示唆された。地殻構造に一様な短波長速度不均質を付与したモデルによる地震動シミュレーションでは、熊本地震の震源域で観測された観測記録の特徴を再現することができず、一様な地殻構造と短波長速度不均質構造のモデル化に限界があることがわかった。試験的な計算により、震源断層近傍にのみ強い不均質を与えることで、観測との不一致が改善することがわかった。 また、近年海域に発達した地震観測網(DONETやS-net)により、海域の地震において複雑な地震波が観測されている。この観測記録の原因が、海域特有の不均質構造(海水、海洋堆積物、海底地形と海洋性スラブ)と地震が発生するプレート境界周辺の不均質構造の影響であることがわかっており、海域の地震についても断層近傍不均質の調査が必要であることがわかった(Takemura et al. 2018)。
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今後の研究の推進方策 |
海外での研究事例や被害地震の後で行われた稠密な地震観測のデータによる研究事例を参考にしつつ、地震の断層近傍における不均質構造を地震動シミュレーションによりモデル化する。熊本地震については、大きな被害をもたらしたことから、地殻構造、震源過程および余震活動に関する多くの研究事例があり、推定された断層近傍不均質とそれらを比較し、断層近傍不均質の成因と地震発生帯の構造的特徴を明らかにする。 地域やテクトニクス環境による差異を調べるため、熊本地震の余震については火山下で発生した余震を含め解析を行う。また、これまで調べてきた最大振幅の方位角変化の周波数・距離変化による調査手法は横ずれ断層におけつ適応が主であったため、横ずれ断層以外のメカニズムの地震に対して有用かを調べる。横ずれ断層以外に適応可能である場合、日本全国について適応可能である。一方で、適応可能でない場合は、横ずれ型の地震が卓越する地域を中心に調査を進める。 地殻内地震に限らず、地震被害を引き起こすような海域で発生する地震についても地震のメカニズム解や地震波伝播特性を調べることで、地震断層周辺の構造的特徴を明らかにする。特にプレート境界やスラブ深部で発生する地震の場合、地殻内地震と特徴が大きく異なることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度は国際会議や国内での国際WSが数多くあり、国外の研究者との意見交換の機会を多くすることで、研究の完成度を高めることを考えており、そのため201,972円を次年度に繰り越すことを考え、そのようにした。
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