研究課題/領域番号 |
17K14385
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研究機関 | 国立研究開発法人防災科学技術研究所 |
研究代表者 |
澤崎 郁 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波防災研究部門, 特別研究員 (30707170)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 余震活動予測 / 連続地震波形記録 / 高周波エネルギー輻射量 |
研究実績の概要 |
当該年度は、日本周辺で発生した10個の大・中規模地震を対象に、余震によるエネルギー輻射過程の統計を調べた。本震発生後1週間以内に発生した全ての余震によるエネルギー輻射量のうち、平均して約40%が最初の1時間以内に発生していることが分かった。この1時間以内のエネルギー輻射量は、1時間後から1週間後までの余震によるエネルギー輻射量と高い相関(対数軸上で85%)を示した。一方、本震によるエネルギー輻射量と本震後1週間後までの全ての余震によるエネルギー輻射量との相関は、対数軸上で72%と低かった。本震によるエネルギー輻射量がほぼ同じでも、余震によるエネルギー輻射量が100倍近く異なる事例もあった。これらの結果は、本震の大きさのみから余震活動予測を行うことの限界を示すものであり、同時に、最初の1時間以内の余震活動の傾向からその後の余震活動を予測できる可能性を示唆するものである。 本震直後の震源位置が不明な状況下でエネルギー輻射位置を推定する手法の開発に取り組んだ。最初の試みとして、地震観測点で記録された地震波形エンベロープを逆伝播させることによりエネルギー輻射位置を推定するエンベロープ逆伝播法を考案し、2016年熊本地震に対してこの手法を適用した。その結果、地震観測点が震源の周囲を均等に囲む場合には、エネルギー輻射位置・輻射量とも正確に推定することができた。しかし、使用観測点が震源に対して偏っている場合は、真の震源を挟んで観測点から遠い位置にエネルギー輻射位置を決める傾向が見られた。その理由は、実際の地震発生時刻よりも前の時刻に実際の震源位置よりも観測点から遠い場所に震源を決めても、観測された地震波形エンベロープの振幅分布を説明できてしまうためと考えられる。したがってこの手法は現段階ではエネルギー輻射位置の推定に用いることはできず、改善が必要であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の研究により、最も重要な「本震後最初の数時間からその後の余震活動を予測できる可能性」を明らかにしたことは、本研究を行う意義を示せたという点で、大きな進展があったといえる。一方で、余震活動予測の具体的な方法を確立するためには、まず連続的に得られるエネルギー輻射量の統計的特徴をどのように抽出するかを検討する必要があり、次年度以降の課題である。エネルギー輻射位置の即時推定については、観測点分布が偏る場合にエネルギー輻射位置の推定にどのような推定誤差が生じるかを示すことができ、本手法の適用範囲をどのように設定するかの指針をある程度得ることができた。一方で、エネルギー輻射位置の推定法はほかにもいくつか考えられ、より高度な推定法も現在検討中である。以上の状況を総合的に判断し、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究により、エンベロープ逆伝播法を用いると、観測点が震源に対し偏って配置されている場合に震源距離とエネルギー発生時刻とのトレードオフが生じることが明らかになった。次年度では、2観測点間の地震波形エンベロープの相関から走時差を検出し震源位置を推定する手法(例えばObara, 2002)を実記録に適用し、その有効性を確かめる予定である。この手法は、エンベロープ逆伝播法に付随した地震発生時刻と震源距離とのトレードオフの問題を軽減できる見込みがある。ただし、地震波形エンベロープにはP波とS波が含まれ、両者が同程度の振幅を持つ場合、ただ相関をとるだけでは適切な走時差を得られない可能性が高い。エンベロープ相関法の確立に当たってはその問題の解決も図る。 また、本震後数時間以内のエネルギー輻射の時系列からその後の余震活動の傾向を予測するための具体的な方法の確立を目指す。具体的には、数分毎のエネルギー輻射量の頻度分布とその時間変化がしたがう関数形を仮定し、地震発生後数時間以内の観測値と合うようにその関数形を特徴づけるパラメータを最尤法などを用いて推定する。次に、得られたパラメータを用いて数時間後以降のエネルギー輻射量の推移を推定し、実際に観測されたエネルギー輻射量と比較して、本手法の有効性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はエネルギー輻射量の統計に関する論文を1本執筆し、英文校閲費用と投稿費用を捻出する予定であった。しかし、エネルギー輻射位置の推定法を確立した後にエネルギー輻射量の統計に関する論文を投稿する方が、将来的にはより効果的に本研究を実装に移しやすいことが分かったため、当該年度の論文の執筆は見送った。余剰分については、次年度の論文投稿費用の一部として使用予定である。
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