研究課題/領域番号 |
17K14385
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研究機関 | 国立研究開発法人防災科学技術研究所 |
研究代表者 |
澤崎 郁 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 地震津波火山ネットワークセンター, 特別研究員 (30707170)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 余震活動 / 連続地震波形記録 / 区間最大振幅 / 非定常Frechet分布 / 最大振幅超過確率 / 予測 |
研究実績の概要 |
昨年度は極値統計に基づく余震予測手法の妥当性を確認するため、モンテカルロシミュレーションに基づく数値実験を行った。具体的には、大森-宇津式およびG-R式に従う地震群を人工的に発生させ、さらにマグニチュードと最大振幅の関係を表す地震動予測式を適用し、最大振幅の時系列をまず生成した。次に、それぞれの最大振幅に輻射伝達理論に基づく地震波形エンベロープを畳み込んだうえで時系列上で足し合わせ、余震群による連続的なエンベロープ波形を合成し、それを用いて1分間ごとの区間最大振幅(IMA)を計算した。 最尤法を用いてIMAに非定常Frechet分布(NFD)を当てはめ、NFDを支配するパラメータを推定し、それがIMA生成において定めたパラメータと一致するかを確認した。1000回のモンテカルロシミュレーションの結果、大振幅におけるNFDのべき勾配を定めるパラメータm値はほぼ入力どおりの値を中心とする正規分布にしたがったが、NFDの絶対確率を表すA値と時間減衰を表すp値は正のトレードオフの関係にあり、両者とも入力値よりやや過大評価される傾向が見られた。地震波形エンベロープを畳み込まない場合はこのような過大評価が見られないことから、地震が短時間に多発する時間帯では波の重なり合いによりパラメータ推定値にバイアスが生じたと考えられる。それでも、推定したパラメータを用いて計算した最大振幅の超過確率は最大振幅の推移を非常によく説明し、波形の重なり合いによるパラメータ推定のバイアスは、実際の予測においてほとんど影響しないことが分かった。 同手法を2008年岩手・宮城内陸地震後4日間の連続地震波形記録に適用した結果、対象とした4つの地震観測点全てにおいて、本震発生後3時間以内の記録から4日後までの最大振幅の推移を適切に予測することができた。この研究結果を取りまとめBSSA誌に投稿し、現在査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では余震活動の推移を早期に予測することを目指していたが、区間最大振幅に極値統計学を用いるという新手法の基礎が確立し、その妥当性を数値実験と実際の観測の両方で確認することができた。大地震発生後3時間以内で非常に安定した予測が可能となることが示されたが、これは従来のカタログを用いた予測法(例えばOmi et al., 2016)に比べても迅速性において遜色ないものである。加えて、カタログ法では困難であった揺れの予測が可能となったこと、1観測点の記録のみを用いて予測できることから実装が容易であること、平穏時の地震活動に適用することで「通常の何倍」地震活動が活発かなどの情報も提供できることなど、従来法にない多くのメリットを持つ。これらを総合的に評価すると、本研究課題の目的のうちかなりの部分が達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、以下の2点についての技術上の問題の克服を目指す。1点目は、ある閾値以上の揺れ(例えば有感地震相当)の発生回数の予測法の確立である。これについては既に数値実験、実記録の両方からおおよその検討はされており、論文化を目指す。2点目は、2次余震(大きな余震そのものが引き起こす余震群)が生じた場合の予測法の確立である。これについても理論的な枠組みはすでに固まっているが、検証は未だ不十分である。数値実験のほか、東北地方太平洋沖地震や熊本地震など顕著な2次余震活動を伴った例に適用し、手法の検証を進める。 次に実装に向けての具体的な手法開発を行う。防災科学技術研究所のサーバ内に蓄積されたHi-net、KiK-net、MeSO-net等の地震波形記録を対象に、大地震による大きな揺れを観測した観測点では自動的に区間最大振幅を計算できるようなシステムの構築を目指す。本震発生から3時間後を起点とし、以後1時間ごとに、3日後くらいまでの揺れの超過確率を算出し表示するまでの一連の流れを自動化することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため国内外への移動が不可能となり、学会参加に係る旅費を使用しなかったため残額が生じた。また、論文投稿料に充てる予定だった費用については、コロナ禍のため執筆および査読プロセスに遅れが生じ、2021年4月時点では受理されていないため、使用されていない。 次年度はこの論文掲載にかかる費用に残額の大部分を使用する予定である。
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