研究課題/領域番号 |
17K14388
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
釜江 陽一 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80714162)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | モンスーン / 大気海洋相互作用 / 気候変化 / 古気候 |
研究実績の概要 |
カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋研究所の共同研究者の協力のもと、海水温同化実験の実施とその解析、および過去1000年間を対象としたマルチモデル実験データの取得とその解析を進め、査読付き論文を含む初期研究成果を得た。 海水温の十年規模の変動傾向を同化した結果、大西洋、太平洋、インド洋の近年の海洋表層の水温変化により、大気海洋および海洋間の相互作用を通して、グローバルモンスーンの十年規模の変化傾向の主要な部分が説明可能であることを見出した。 第三次古気候モデリング相互比較プロジェクトのもとで実施されたマルチモデルによる過去1000年間の気候再現実験の結果をデータサーバーにダウンロードし、モンスーンの変動を調査する上で重要な気象要素を統一フォーマットに変換し、マルチモデルに共通する傾向を調査した。その結果、中世温暖期と小氷期の間では、従来から指摘されていた夏季アジアモンスーンの強度に差があることに加え、その季節進行に明瞭な違いが存在することを見出した。 加えて、アジア・西太平洋モンスーンを特徴づける夏季の南西モンスーン気流に伴う水蒸気輸送が、温帯低気圧の通過に伴って顕著に強まる際に、東アジアに豪雨をもたらす傾向があること、また、その季節的なリスクは、熱帯の大気海洋相互作用の観点から、半年前から予測可能であることを見出した。この研究成果は、本研究課題を通して、モンスーン変調の要因の一つである熱帯大気海洋変動が、海洋間相互作用を通して夏季東アジアモンスーンに大きな影響力を持っていることに注目していたことにより、副次的に得られたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋研究所の共同研究者による海水温同化実験の実施が、当初の想定を超えてスムーズに進展した。これは、共同研究者が所属機関の移動を控えていたため、当初の予定を繰り上げて実験を実施する必要に迫られたという事情に起因するものである。また、研究代表者がカリフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋研究所での滞在を終え、筑波大学へ戻る必要があったため、帰国までに本研究課題に関する解析および共同研究者との議論を集中的に行った。その結果、初期的な研究成果がまとまり、査読付き論文として発表するに至った。 第三次古気候モデリング相互比較プロジェクトのもとで実施された、過去1000年間を対象としたマルチモデル実験データの取得とその解析が当初の想定を超えてスムーズに進んだ。マルチモデル実験データは、その実験期間の長さから極めて大量であり、収集には時間を要するものと想定していた。一方で、そのデータ収集を効率よく行う方法について情報を得ることができ、また、筑波大学の共同研究者とのskype等を通じた議論が円滑に進んだため、優先的に調査すべき気象変数の選定が進み、実験データの円滑な収集に繋がった。その結果、中世温暖期と小氷期という二つの特徴的な期間を比べると、マルチモデルの間に共通して、アジアモンスーン季節進行の変調という特徴が存在することを見出すに至った。季節進行変調の原因は、直接的には特定できていないものの、地球軌道の100年スケールの変動に応じて、太陽入射量の緯度・季節配分がわずかに変わったことの結果として、概ね不整合なく解釈できるという結論を得た。
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今後の研究の推進方策 |
海水温同化実験によるグローバルモンスーン変動機構の調査については、その初期結果を査読付き論文として報告したものの、大西洋や太平洋の水温変動が世界各地のモンスーンに与える影響の不確実性、季節依存性、予測可能性について検証する。広域の海洋表層の水温分布が大きく入れ替わると、熱帯の対流活発域、亜熱帯の下降流域、それぞれにおける上層・中層・下層雲の広がり方にも影響し、温室効果や日傘効果を通じて海洋表層の温度とのフィードバックが生じる可能性がある。今後は、特定の海域の水温変動を発端とした大気・海洋相互作用系の変調を通した局地・遠隔影響のうち、対流圏下層の安定度や下層雲の被覆率に着目しながら、調査を進める。 古気候モデリング相互比較プロジェクトのもので、世界の気候モデルによって実施された実験データのうち、過去1000年以外の時代を対象にした実験データも順次集約し、異なる気候強制力によって駆動されるグローバルモンスーンの変調について、包括的な理解を得ることを目指す。具体的には、気候モデル相互比較プロジェクトのもとで実施された、将来の気候変化予測実験、およびそのメカニズム検証のために実施された海面水温固定・二酸化炭素濃度上昇実験や、二酸化炭素濃度固定・海面水温上昇実験など、複数の感度実験のデータを併用することで、時間スケール、強制力の異なる過去から将来にかけてのグローバルモンスーンの変動機構の理解を進展させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の想定を超えて研究が進捗し、海水温同化実験の実施と解析、および過去1000年の気候変動実験データの集約が進み、一定の研究成果がまとまったことで、論文投稿費、学会参加費、成果発表のための研究費が必要になった。そのため、平成29年度の交付額の前倒し支払い請求を行った。支払い請求額は10万円単位で請求する必要があったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、平成29年度にまとめた以外の研究成果を発表するための論文投稿費、学会参加費に使用する計画である。
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