農業生産量をはじめとした世界的な人々の活動に大きく関わるグローバルモンスーンの変動を、20世紀後半以降に着目して調査を行った。初年度と二年度には、米国、中国との共同研究を通して実施した海水温同化実験を解析し、世界的なモンスーンの挙動が、特に十年規模に注目した場合に大西洋を発端とした海盆間相互作用によって密接に結びついていることを見出した。また、過去1000年間を対象としたマルチモデル実験データ、および独自に行った感度実験の解析を通して、地球軌道要素の微細な変動に伴う太陽入射量の緯度・季節配分の変動が、アジアモンスーンの季節進行のタイミングを左右するだけの影響力を持つことを明らかにした。加えて、観測データと高解像度大気大循環モデルによるアンサンブル実験の結果を用いて、日本をはじめとするアジアモンスーン域の極端現象の発現可能性を左右する大気海洋相互作用システムを特定した。熱帯太平洋とインド洋の海盆間相互作用を通して生成される亜熱帯高気圧偏差は、日本に豪雨災害をもたらす台風や、長く筋状に発達する水蒸気輸送帯が通過しやすい地域を変えることで、日本の災害リスクと太平洋・インド洋の変動パターンとの間に新たな関連性があることを見出した。長期的な変動として、地球温暖化が進行することによる災害リスクの変化についても、前述のアンサンブル実験を通して、日本を襲う極端現象の頻度が増加する可能性を見出した。最終年度には、太平洋に卓越する年ごとの気候変動モードが、東アジアを含む北太平洋域の水蒸気輸送帯の振る舞いを大きく変える様子と、そのメカニズムを明らかにした。主に夏季を対象に得られたこれらの成果は、冬季から春季にかけて、わが国を襲う発達した温帯低気圧に伴う水蒸気輸送帯の活動の実態を明らかにするための足掛かりとなる。
|