研究課題/領域番号 |
17K14389
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 祐希 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80632380)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 赤道太平洋 / 熱帯不安定波 / 順圧/傾圧不安定 / 線形安定性解析 / 固有モード |
研究実績の概要 |
赤道太平洋の水温躍層における鉛直乱流混合は,運動量の鉛直輸送を通じて赤道域の海流構造に影響するだけでなく,表層から中深層への熱の鉛直輸送を通じて海面水温をコントロールし,熱帯域の大気海洋相互作用や全球の気候変動にも影響を及ぼす重要な物理過程の一つである。赤道太平洋の乱流混合に重要な役割を果たす現象の一つが,熱帯不安定波 (Tropical Instability Wave, TIW) と呼ばれる中規模擾乱である。TIWは,東部から中央部太平洋のほぼ赤道に沿って約0.5 m/sの速度で西向きに伝播する,波長約1000 km, 周期約25日の波動であり,赤道域の複雑な海流系の順圧/傾圧不安定によって励起されると考えられている。また,TIWは顕著な季節/経年変動を示し,ENSOのような大規模な気候変動現象とも密接に関連することが知られている。しかしながら,その励起過程の詳細は未だ十分に明らかにされていない。 本年度は,このTIWの励起過程を明らかにすることを目的に,赤道太平洋の複雑な流速/密度構造を背景場として考慮した上で,その線形安定性を数値的に解析するためのモデルを構築した。本モデルの特徴は,鉛直2次元面内における固有値問題を扱うことで,赤道太平洋の現実的な子午面構造を考慮できる点である。本モデルで得られる固有モードは,背景流が存在しない一様成層の赤道ベータ面における一連の赤道波や,中緯度 f 面における一様シアー流中の傾圧不安定波などについて,理論的な解と一致することが確認された。さらに,海洋大循環モデルOFESで再現された赤道太平洋の流速/密度場を背景場として与えた場合には,TIWとよく類似した位相速度や空間構造をもつ不安定モードが得られた。今後,この不安定モードの物理特性を詳細に解析することで,TIWがどのような不安定機構によって生じているのかを明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度には,熱帯不安定波 (Tropical Instability Wave, TIW) の励起過程の解明に向けて,数値的に安定性解析を行うためのモデルを予定通り構築することができた。本モデルは,鉛直2次元面内における固有値問題を扱える点が大きな特徴であり,今後このモデルを活用することで,赤道太平洋の複雑な流速/密度場に起因するTIWの励起過程を明らかにしていくことが期待できる。本モデルを用いた予備的な解析の結果,理想的な背景場を仮定した場合には解析解と一致する中立/不安定モードが得られること,さらに,海洋大循環モデルで再現される現実的な赤道太平洋の流速/密度場を与えた場合には,TIWによく類似した不安定モードが得られること,などが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には,熱帯不安定波 (Tropical Instability Wave, TIW) の励起過程の解明に向けて,赤道太平洋の複雑な流速/密度場を考慮した上で数値的に線形安定性解析を行うためのモデルを構築した。本モデルを海洋大循環モデルで再現された赤道太平洋に適用した結果,TIWとよく類似した位相速度や空間構造をもつ擾乱が不安定モードとして得られた。 平成30年度には,この不安定モードの分散関係や偏波関係,空間構造などの物理特性を詳細に解析することで,TIWがどのような不安定機構によって生じているのか,その起源を同定するとともに,TIWの波長や周期,成長率がどのような背景要因によって決定されているのかを明らかにしていく。さらに,背景場として仮定する赤道太平洋の密度場や流速場をさまざまに変えて安定性解析を繰り返すことで,TIWの季節/経年変動をコントロールする要因を同定する。得られた結果は,観測データや海洋大循環モデルを用いた数値実験結果などに適用することで,その有効性を検証する。 数値実験ではさらに,もはや線形理論が適用できないような振幅にまで成長したTIWの,非線形的な発達・伝播・減衰過程までも再現できていることが期待される。これらの非線形過程のうち特に,TIWが乱流混合を引き起こしながら減衰していく過程について,その影響を定量的に評価していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の遂行に必要な大型計算機の使用料を,当初,本科学研究費補助金から支払うことを予定していたが,研究代表者が所属する研究グループの共同利用によって,本科学研究費補助金を使用せずに東京大学情報基盤センターの大型計算機を十分に利用することが可能となったため,大型計算機の使用料に計上していた予算の一部を次年度使用額として計上することとした。 大型計算機の使用料に24万円、研究打ち合わせ旅費に4万円、国内学会での成果発表およびその出張旅費に16万円、国際会議での成果発表およびその出張旅費に60万円、論文投稿料に40万円、論文の英文校閲費に8万円、データ解析および図の描画用のソフトの購入に8万円、データ保存用のハードディスク購入に12万円、本研究課題に関連する専門図書の購入に6万円程度の使用を予定している。
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