研究課題/領域番号 |
17K14389
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
田中 祐希 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (80632380)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 赤道太平洋 / 熱帯不安定波 / 内部波 / 線形安定性解析 / 渦解像海洋大循環モデル |
研究実績の概要 |
2019年度までに引き続き、赤道太平洋の顕著な中規模擾乱である熱帯不安定波 (Tropical Instability Wave, TIW) の発生・伝播・減衰機構に関する考察を進めた。赤道太平洋東部で励起されたTIWは、西方に伝播する過程でそのフロント部から小規模の内部波を下向きに放射することで減衰していく。この内部波は、赤道太平洋の密度躍層以深の鉛直乱流混合やそれに伴う表層から中深層への熱輸送に重要な役割を果たしている可能性が指摘されている。そこで2020年度は、このTIWフロント部からの内部波の放射機構を明らかにすることを目指した。まず、この内部波放射の問題を、「周期的な時間変動をする背景場中における不安定波の成長」の問題として捉え、その定式化を行った。さらに、Onuki and Tanaka (2019)によって開発された手法を参考に、この問題を固有値問題へと帰着させ、線形安定性解析を実施した。解析の結果、背景場として仮定したTIWとともに西方へ伝播する不安定擾乱が得られた。この不安定擾乱は、TIWのフロント部で大きな振幅を持ち、また、下層へ向かって位相が逆転するという空間構造を持っていた。これらの特徴は、渦解像海洋大循環モデルOFESによって再現されているTIWから放射される内部波とよく類似したものである。さらに、TIWの振幅が大きいほど不安定擾乱の振幅も大きくなることや、TIWの伝播速度が背景場パラメータから計算される内部波の伝播速度に近くなるときに不安定擾乱の振幅が特に大きくなること、などが示された。これらの結果は、TIWからの内部波の放射が一種の共鳴現象として理解できる可能性を示唆するものである。 2020年度にはさらに、上記と同様の安定性解析手法を用いて、海底地形上の準地衡流の安定性を明らかにした。得られた成果を論文にまとめ、現在国際誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度には、時間変動する背景場に対する線形安定性解析を行うことで、渦解像海洋大循環モデル中で見られる熱帯不安定波のフロント部から下向きに放射される小規模内部波とよく類似した不安定擾乱を得ることができた。しかしながら、得られた擾乱の励起過程に関する力学的な理解や、背景場パラメータへの依存性に関する解析はまだ不十分である。また、線形安定性解析の結果の検証に必要な高解像度の数値実験の準備に当初の予定より時間がかかっている。このため、全体的な成果の取りまとめに多少の遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度までに確立した線形安定性解析手法によって、熱帯不安定波のフロント部から下向きに放射される小規模内部波のいくつかの重要な特徴を再現することができたものの、この定式化にはまだいくつかの問題点が残っている。特に、背景場として仮定した熱帯不安定波が基礎方程式を厳密に満たしていない点は大きな問題である。また、線形安定性解析の時空間的な解像度も不十分である。2021年度にはこれらの問題点を解決し、より高精度の線形安定性解析を実施する。これによって、熱帯不安定波から放射される内部波の発生機構の詳細を明らかにする。特に、不安定モードとして得られる内部波の水平波長や鉛直分布などの空間構造、伝播速度や成長率などの分散特性がどのように決定されているのかに着目して解析を進める。さらに、背景場として仮定する熱帯不安定波の振幅や鉛直構造をさまざまに変えながら安定性解析を繰り返すことで、放射される内部波のエネルギーフラックスが大きくなるための条件を明らかにする。最後に、安定性解析で得られた結果を高解像度の数値実験によって検証する。得られた成果は、学会発表や論文はもちろん、ホームページ上などで広く公表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果発表のための国内および国際会議への参加費や出張旅費、論文の投稿費および英文校閲費などが予定より安くすんだことから、これらに計上していた予算の一部を次年度使用額として計上することとした。特に、国際会議への参加ができなかったことによって大きな次年度使用額が生じた。 2021年度には、大型計算機の使用料に20万円、研究打ち合わせ旅費に10万円、国内学会での成果発表およびその出張旅費に20万円、国際会議での成果発表およびその出張旅費に30万円、論文投稿料に40万円、論文の英文校閲費に10万円、データ解析および図の描画用のソフトの購入に10万円、データ保存用のハードディスク購入に25万円、本研究課題に関連する専門図書の購入に5万円程度の使用を予定している。
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