研究代表者は2021年度までに、赤道太平洋の顕著な中規模擾乱である熱帯不安定波が、赤道付近のそれぞれ正負の渦位勾配に捕捉された二つの逆向きに伝播するロスビー波が平均流による移流効果のもとで結合したものとして理解できることを、線形安定性解析と数値シミュレーションに基づいて明らかにした。 このような赤道に捕捉されたロスビー波のモードが存在できるのは、中緯度域において海底・陸岸地形に捕捉されたロスビー波のモードが存在できるのと同様のメカニズムによる。2022年度には、赤道域で用いたのと同様の安定性解析手法を中緯度域に応用することで、海底地形上の二層準地衡流の安定性を議論した。まず、励起され得る中規模擾乱の空間スケール(海盆のスケール)や海底地形の存在を考慮することのできる新たな安定性条件を、擾乱の擬エネルギー保存に基づいて理論的に導出した。さらに、得られた安定性条件の妥当性を、様々な背景場を仮定した線形安定性解析の結果と比較することで検証した。最後に、得られた安定性条件を黒潮流路の変動を再現した数値シミュレーション結果に適用することで、黒潮の大蛇行流路が紀伊半島の南で安定に存在できるのは四国海盆と膠州海山のためであることを明らかにした。これら一連の成果は論文としてまとめ、国際誌に公表した。 2022年度にはまた、海盆スケールの順圧潮汐流からこのような地形に捕捉されたロスビー波モードの内部潮汐波へと変換されるエネルギーフラックスの定式化を行った。得られた定式化を、海底地形・成層強度・潮汐流速などを様々に変えた数値シミュレーション結果に適用することで、その妥当性を検証するとともに、従来の理論ではロスビー波モードの内部潮汐波を考慮していないため、エネルギー変換率の推定が過小評価となっている可能性を指摘した。
|