本研究では冬季の小規模渦状擾乱について、長期的な統計的特徴を調べ、気候系との関連を明らかにするため、高解像度データと客観的追跡手法を用いて解析を行った。 まず、過去の渦状擾乱の統計的特徴を明らかにするため、気象庁メソ解析(MA)と気象庁55年長期再解析(JRA55)からの領域ダウンスケーリング(DSJRA55)を用いて、冬季日本海上の渦状擾乱の統計的調査を行った。これらの解析により、総観スケールの上層トラフの移動経路によって、渦状擾乱の発生位置や移動経路が予測できることを明らかにした。 DSJRA55を用いた解析では、極域の気候レジームシフトに対応して、1987年を境に1冬季あたりの発生数が減少していることを明らかにした。全球規模の変動との関連では、北極振動が負フェーズのときに渦状擾乱の発生数が多くなることを明らかにした。また、北海道西方海上の渦状擾乱の発生数は、太平洋十年規模振動とも関連していることを明らかにした。 NHRCM05を用いた将来の渦状擾乱の解析では、渦状擾乱の発生数が将来の温暖化によって減少することを示した。この減少は、冬季の季節風が弱化することで、渦状擾乱が発生しやすい環境場の形成頻度が減少することが主な要因であることを明らかにした。 今年度はこれらの解析結果を論文として学術雑誌に投稿する準備を行った。また、本研究で得られた知見の一部を、レビュー論文として発表した。さらに、英国・ノルウェーの研究機関の研究者との国際共同研究において、本研究で利用した客観的追跡手法を大西洋など、日本海以外の海域にも適用し、その統計的調査を行った。
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