研究課題/領域番号 |
17K14393
|
研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
小郷原 一智 滋賀県立大学, 工学部, 講師 (50644853)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 火星 / 塵旋風 |
研究実績の概要 |
火星着陸機が撮影した画像に写る地表の模様と,火星周回機が撮影した着陸地点付近の画像を比較して,着陸機が撮影した画像に写るダストデビルと着陸機との距離を導出する予定であった.しかし,先行研究(Greeley et al., 2006; 2010)で示されていない観測日の着陸機画像には,地表の模様が鮮明でないものが多量に含まれていた.ダストデビル-着陸機間距離が計測できなければ,ダストデビルの重要な特徴である直径を計測できない.そこで,画像ヘッダからSpice Toolkit (https://naif.jpl.nasa.gov/naif/toolkit.html)を用いて導出できる着陸機の傾きや測器の視線ベクトル,およびMars Reconnaissance Orbiter (MRO) 搭載のHiRISEで撮影された高解像度画像から作成されたDigital Terrain Model (DTM)を組み合わせることで,地表面の模様が鮮明でなくてもダストデビル-着陸機間距離を導出する方法を開発した.これにより,Spiritのほとんどの観測画像においてダストデビルの直径を見積もることが可能になった.ダストデビルを自動検出するアルゴリズムは,精度を向上させたうえで前年度までに開発できていた.その精度検証のための正解づくりの意味も含めて,目視 によってダストデビルを計数できるインターフェースを開発し,sol0443からの1火星年で各solにおけるダストデビル発生数を数えた.その結果,観測時の地方時や季節変化では説明できないダストデビル発生数の変動がみられた.特に,正午付近のダストデビル発生数は2日周期の変動する可能性がある.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
先行研究で示されいない画像において地表面の模様が鮮明でないためダストデビル-着陸機間距離が計測できず,結果ダストデビルの重要な特徴である直径を 計測できない問題は,SPICE toolkitおよび他の観測機器のデータから作成されたDTMを用いることで解決できた.さらに,連続する別画像に写る同一のダストデ ビルを別のダストデビルとして計数する仕様になっていた問題も,多数の画像を用いて検証できていないものの,テンプレートマッチングを用いることで解決できる見通しがついた.しかしながら,自動でダストデビルを計数し,同時に,連続する別画像に写る同一のダストデビルを同一と自動で認識する手法を評価するためには,結局は目 視検出による正解データが必要になる.目視検出を支援するインターフェースを別途開発したものの,1火星年分の観測データについて,目視でダストデビルを検出し,位置を決め,大きさを決め,それらが同一かどうかを判断するには時間が相当かかった. さらに,ダストデビルの発生数や大きさと周囲の大気環境との相関を明らかにするために用いるつもりであったMars Global Surveyor搭載のThermal Emission Spectrometer(MGS/TES)は,ダストデビルを目視検出した期間においてはすでに観測を停止しており,データが存在しないことが分かった(MGSは活動しているがTESは停止).当該期間は後発のMROが観測を開始する前であるため,衛星観測のmissing windowであった.そこで,Spiritの観測3年目のデータからダストデビルの発生数や大きさと周囲の大気環境との相関を明らかにすべく,目視検出を開始した.
|
今後の研究の推進方策 |
ダストデビルの自動計数は効率的で再現可能であるが,その精度検証には結局目視によるダストデビルの検出,位置決め,大きさの計測,同一性の判断が必要になる.実際に1火星年分の画像を対象に上記の目視検出を行ったところ,すでに開発された自動検出アルゴリズムを支援ツールとして使用して自動検出結果を目視で修正する方法がもっとも精度と効率のバランスが良いと感じられた.そこで,Spirit3年目の観測データに対しても同様に,自動と目視のハイブリッドで検出,位置決め,大きさ計測,同一性の判断を行う.すべて自動で行うより多少時間はかかるが,(同一性を判断できない)自動検出アルゴリズムの精度が約8割であることを考えれば,時間に見合った精度向上が見込める.上記1火星年分の目視検出結果からは,2日程度の周期のダストデビルの個数変動がみられるので,3年目の観測データからも同様のシグナルが期待できる. Spiritの観測3年目はMROの観測期間に含まれており,新しい火星大気再解析データセット(EMARS)を用いれば,ストデビルの発生数や大きさと周囲の大気環境との相関を明らかにすることができるはずである.
|
次年度使用額が生じた理由 |
通常3年に1回,1月に開催されているMars Atmosphere: modeling and observationsという国際学会に参加予定であったが,今回は6月に延期されたため.2020年度中に成果発表を行う.
|