研究課題/領域番号 |
17K14395
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
高谷 祐平 気象庁気象研究所, 気候研究部, 主任研究官 (30782289)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 熱帯低気圧 / 季節予測 / アジアモンスーン / インド洋 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、エルニーニョ―南方振動(ENSO)及びインド洋の影響を受ける西太平洋モンスーンと台風の変動メカニズムを大気―海洋変動の観点から統合的に理解し、それらの季節時間スケールの予測可能性を明らかにすることである。 初年度の平成29年度には、海盆間の相互作用を介したエルニーニョ現象の遅延影響による北西太平洋の台風(熱帯低気圧)活動への影響及びその予測精度を調査するため、2016年の事例を対象とした数値実験及び解析を行った。本研究成果は国際誌において論文発表するとともに、国内外の学会及び研究会において発表した。以下にその概要を述べる。 2016年夏季前半には北西太平洋の台風(熱帯低気圧)の活動が不活発であった。エルニーニョ現象の影響を受けてインド洋海面水温が平年より高かった状態がこの熱帯低気圧の不活発な活動の要因であったという仮説を検証するため、インド洋に海面水温の気候値を与えた感度実験と対照実験(通常の予測)を実施し、結果を比較した。その結果、2016年夏季前半のインド洋の高い海面水温が不活発な熱帯低気圧の活動を引き起こしていたことが確かめられた。エルニーニョ現象の翌夏のインド洋SSTの昇温による台風活動の抑制は、これまで観測データの解析によって指摘されていたが、数値モデルを用いた感度実験により要因分析したのは本研究が初めてであり、得られた結果は提唱された変動メカニズムを力学的に裏付けるものである。さらに、本研究では、北西太平洋の台風発生数の予測精度を季節毎に比較し、初夏(5月ー7月)に比較的高いことを見出した。この初夏の比較的高い予測可能性は、エルニーニョ現象の遅延影響が初夏の北西太平洋の熱帯低気圧の活動に強く影響することを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度には、2016年夏季の事例について、北西太平洋モンスーンと熱帯低気圧の数値実験、解析を実施した。また、得られた結果を国際誌の査読付き論文として成果発表することができた。このように初年度の研究計画の内容は予定通り実施することができた。 また、研究実施計画を前倒しして、来年度(平成30年度)に実施予定であった多数事例の感度実験の環境を整備し、既に数値実験を実施中である。さらに、本研究課題の発展として、計画に無かった夏季アジアモンスーン及び台風活動の1年先予測実験を実施し、解析中である。以上の通り、本研究課題はおおむね順調に進展しており、現段階において、当初予期していなかった問題は生じていない。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降も実施計画通り、研究を実施する計画である。 来年度にあたる平成30年度には、気象庁の季節予測システムによる多数年の海面水温感度実験を実施することにより、エルニーニョ・南方振動と西太平洋ーインドモンスーンと台風変動メカニズムを明らかにする。また、本年度に実施した夏季アジアモンスーンの1年先予測実験の解析を進め、その結果を論文にまとめる。 再来年度以降は、得られた結果をもとに、EUROSIPマルチモデルアンサンブルの複数のモデル予測結果を用いて年毎の変動メカニズム及びモデル間の予測の相違点について解析することにより、最新の季節予測システムにおける、ENSOによるインドー西太平洋モンスーンと熱帯低気圧予測の予測可能性の鍵となるプロセスの再現性を検証する。こうした解析を通じて、モデルの夏季アジアモンスーンの再現性及び予測精度の向上に資する知見を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該科研費にて支出する予定だった、本年度当初に投稿した論文の英文校閲費および投稿料を気象研究所の経常研究費より支弁したため、実支出額に減額が生じた。 次年度の使用計画では、9月に米国において開催される季節内から十年規模予測の国際会議の旅費、参加費として約34万円、大容量ストレージディスク(10TB)に約20万円、ノートPCの更新に約16万円、論文投稿費、英文校閲費として約25万円等、計108万円程度を計上している。
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