課題最終年度は固体天体の昼側表面に形成される光電子層の沿面方向のダイナミクスについて検討を行った。特に表面の2地点間に電位差が発生する状況を想定し、その間に発生する静電場に対する光電子層の応答を調査した。光電子層内の電子は固体表面での生成と消滅を常に繰り返しているため、電界加速によって電子が獲得する運動量は一定の時間間隔でリセットされ、消失する。これにより光電子層は沿面方向に有限の電気伝導度を有するかのように振る舞うことが確認された。これは無衝突の宇宙プラズマ領域において、固体表面が有限抵抗境界をなし得ることを示唆する結果である。 研究期間を通して非磁化/弱磁化固体天体と宇宙プラズマの相互作用に起因する諸現象の特徴を大規模粒子モデルシミュレーションで明らかにした。期間内に得られた注目すべき知見として、固体プラズマ相互作用の波及距離の観点が挙げられる。当現象は従来、宇宙プラズマの最小特性長であるデバイ長スケールの物理過程であると捉えられていたが、特定の条件下を満たす際には固体表面に起因するプラズマ構造、速度分布関数、電磁環境のじょう乱は100デバイ長を超えて波及する。本研究においてその条件が「物体サイズ>電子ジャイロ半径」であること、およびその理由を突き止め、人工衛星から長距離に渡って伸展する電子翼や、月上空の高周波電磁波動の励起などの発生を数値的に再現することに成功した。また一連の取り組みにより、「太陽風中の月・小惑星」と「地球・惑星電離圏中の人工衛星」という、全く異なる状況でみられる固体プラズマ相互作用の間に、ある種の共通性がみられることも示した。今後は本研究課題で得られた知見をベースとして、個々の相互作用現象の時空間発展の詳細を高精度の数値シミュレーションによって調べ上げ、固体天体・宇宙環境間の物質・エネルギー輸送に果たす役割を明らかにしていく計画である。
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