本研究は、絶対水温計として注目されている炭酸凝集同位体比(クランプトアイソトープ、Δ47)分析について、様々な炭酸塩試料で活用可能な同位体比分析手法の検討と応用研究の進展を目的とする。本研究課題は萌芽的同位体分析技術の汎用化を目指した基礎研究であり、Δ47同位体比分析システムの実用化により、絶対水温という新たな古環境指標の活用が可能になる。Δ47同位体比分析を生物源炭酸塩や地質試料へ応用し、古環境学・地質学・古生物学・生態学など幅広い研究分野への貢献を目指す。 本年度は以下の成果が得られた。 茨城高専保有の炭酸塩前処理装置SPICALで、生物源炭酸塩(貝類・サンゴ・鳥類の卵)や大理石試料、標準試料の二酸化炭素ガス精製を行い、同位体質量分析計Isoprime100によるΔ47分析を実施した。2019年1月~6月まで訪問したスイス工科大学チューリッヒ校のステファノ・ベルナスコーニ教授との共同研究を進め、(1)質量分析計のキャピラリー部の比較検討、(2)IsoPrime100質量分析計でのバックグラウンド補正法の検討、(3)加熱/冷却部を備えた不純ガスのトラップシステムの検討、さらに応用研究として、(4)水温実験および酸性化実験を実施した貝類の炭酸塩殻を用いた炭酸凝集温度計の提案を行った。 (4)の応用研究では、二枚貝アカガイ(Scapharca broughtonii)の炭酸凝集温度計は高精度に絶対水温を復元できることを明らかにした。本プロジェクトを通じて、炭酸凝集同位体比分析法を今後さまざまな生物源炭酸塩へ応用するための技術的基盤や応用研究の提案を行った。
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