地球中心核の化学組成は、地球の材料物質、マグマオーシャンから金属核が分離した核形成時の状況、及びマントル対流・コアダイナモといった現在のダイナミクスを理解するために欠かせない。地球中心核の大部分を占める液体外核は鉄(Fe)を主成分とし、10%程度の軽元素が含まれていることが知られているが、この軽元素種類、量比についてはは未解明のままである。当核研究課題では、鉄と候補となる軽元素との液体合金の音速を高圧下で測定し、地球中心核の唯一の観測情報である地震波速度と比較することで、軽元素の種類及び含有量を決定することを目的としている。今年度は、液体Fe75P25合金及び液体Fe80N20合金の高圧下縦波速度測定を行い、軽元素候補であるリン(P)と窒素(N)が液体鉄の音速に及ぼす効果を検証した。測定には大型放射光SPring-8に設置されている非弾性X線散乱分光装置とレーザー加熱式ダイヤモンドアンビル高圧高温発生装置を用いた。液体Fe75P25については、昨年度までに54GPaまで測定を行っていたが、今年度はさらに80GPaまで測定圧力範囲を広げることに成功した。また、液体Fe80N20の音速を新たに75GPaまで決定した。先行研究で報告されている液体Feの結果と比較すると、リンは鉄の縦波速度にほとんど寄与しないことが明らかになった。一方で、Fe80N20の音速は純鉄と比較し4%速く、窒素は鉄の音速を増大させる。本研究の結果を実際の外核最上部での圧力136GPaまで外挿し、地震学的観測により得られている液体外核の縦波速度を比較すると、リンは液体鉄の音速に影響を及ぼさないため、リンの外核中存在量に制約を与えることはできないが、窒素の外核中最大存在量は2.7wt%と見積もることができた。
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