研究課題/領域番号 |
17K14419
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
柵山 徹也 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80553081)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中国プレート内火山 / 中国地方第三紀玄武岩 / 火山岩岩石学 / 斑晶 / メルト包有物 |
研究実績の概要 |
本研究では、沈み込んだ海洋プレートが背弧側上部マントルに与える熱・物質的影響を評価するために、ユーラシア大陸東縁部背弧域・超背弧域に産する新生代プレート内火山の物質科学的検討を行っている。本年度は,中国・南京および五大連池周辺の第三紀・第四紀火山玄武岩試料,日本海にある清風海山,中国地方神鍋火山の玄武岩試料の分析・解析,および中国地方横田火山群・黒岩高原玄武岩試料の採取・分析・解析を中心に行った. 中国・五大連池周辺の玄武岩火山に含まれる斑晶を,JAMSTEC横須賀本部に設置してある高電圧パルス選択性粉砕装置(SELFRAG LAB)を用いて分離した.実体顕微鏡を用いて結晶中にメルト包有物を含む斑晶をさらに分離し,二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて揮発性元素の含有量測定のため,メルト包有物が表面に出るように斑晶の研磨を行った.メルト包有物の研磨に関してはJAMSTEC高知コア研究所で指導を受けた. 清風海山玄武岩試料は,全岩K2O含有量の違いから高Kグループと低Kグループに分けられることを前年度明らかにした.両グループ間で全岩TiO2,Zr, Yなどの含有量が系統的に異なることから,その違いがその他の微量元素,放射性同位体元素でも見られるかどうか確認するため,北海道大学において誘導結合プラズマ質量分析計(ICPMS)および表面電離型質量分析装置(TIMS)を用いた分析を行った.また,大阪市立大学設置の電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)を用いて,斑晶化学組成の分析を行った. 横田火山群および黒岩高原において調査・サンプリングを行い,両地域から比較的新鮮で変質の程度が小さい良質な合計約60個の岩石試料を採取した.採取した全試料について,岩石薄片・岩石粉末の作成を行い,偏光顕微鏡観察,蛍光X線分析装置による全岩化学組成(主要元素,微量元素)分析を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国・五大連池周辺の玄武岩試料(合計30試料)は,岩石をスラブ状に切り出し,高電圧パルス選択性粉砕装置を用いて粉砕し,そこから実体顕微鏡を用いて斑晶を選り分けた.斑晶含有量が少ないため(5vol%以下),合計50kg程度の試料を粉砕して,回収した斑晶は現時点で合計300粒程度で,さらにメルト包有物を含む斑晶はその1割未満であるが,比較的大きなメルト包有物は複数回収できている.メルト包有物の研磨作業も2018年度中に開始しており,10粒程度の研磨は終了している.最終的には二次イオン質量分析装置を用いて,メルト中の揮発性元素含有量を測定し,マグマの生成条件の推定,マントル含水量や化学組成の決定を行うが,膨大な時間がかかるメルト包有物の探索と研磨作業の見込みが2018年度中についたことから,概ね順調に進んでいる. 清風海山玄武岩試料は,全62試料から,風化の程度,化学組成の幅,記載岩石学的特徴等を総合的に考慮して,全体を代表する30試料を抽出し,北海道大学との共同研究でICP-MSおよびTIMSを用いた微量元素・放射性同位体元素組成の決定を行った.これにより,清風海山玄武岩試料において予定していた分析は,EPMA分析による斑晶化学組成の決定のみとなった. 中国地方横田火山群・黒岩高原玄武岩火山玄武岩試料は,2018年度前半に試料を採取し,蛍光X線分析装置(XRF)による全岩主成分および微量成分化学組成の測定まで終了した.作成した岩石薄片は組織観察,鉱物組み合わせの決定,斑晶モードの測定まで全て終了し,一部の薄片試料に関してはダイヤモンドを用いた鏡面研磨を行い,EPMA分析を開始している.黒岩高原玄武岩試料の全岩化学組成分析結果からは,これまで報告されていなかった系統的な化学組成トレンドが見出された.いずれの地域に関しても,今後の研究に必要十分な数と質の分析値を取得することができた.
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今後の研究の推進方策 |
中国・五大連池周辺の玄武岩試料に関しては,引き続きメルト包有物探しと,研磨作業を行い,2019年度前半の早い段階で終了する予定である.研磨が終了し次第,JAMSTEC高知コア研究所において,SIMS分析を行い,メルト含水量やその他揮発性元素組成を決定する.メルト含水量が決定した後,マグマ生成条件の推定を行い,先行研究との比較を行う. 清風海山玄武岩試料については,全岩化学組成(主成分元素,微量元素,放射性同位体元素)は予定していた分析が全て終了した.全岩化学組成分析から,単純な結晶分別過程では説明できない微量元素・放射性同位体組成トレンドが存在することが明らかとなったため,今後は地殻物質の同化作用や,マグマ混合過程などの詳細な検証を行う.そのためにまず,斑晶鉱物化学組成,石基ガラス組成分析を行い,2種類のマグマ組成(高Kと低Kグループ)の違いの原因を特定する.また,鉱物化学組成からマグマ含水量の推定を行った上で,マグマ生成条件,微量元素・放射性同位体からマントル起源物質組成の推定を行い,8Ma頃の日本海周辺におけるマントルの物理化学的状態を明らかにする. 中国地方の第三紀玄武岩火山(横田玄武岩火山,黒岩高原玄武岩火山)の新たな試料採取,岩石記載および全岩化学組成分析が終了したため,今後は薄片研磨の後,EPMA分析により斑晶・石基化学組成分析を行う.全岩化学組成および斑晶化学組成を用いて,結晶分別過程,マグマ混合過程,地殻同化作用などの検証を行ったうえで,マグマ含水量の推定を行う.また,全体を代表する試料を抽出し,他の研究機関においてICP-MS分析およびTIMS分析を行い,希土類元素組成・放射性同位体元素組成を決定し,より詳細な地殻同化作用の検証と,マグマ起源物質の特定を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に行った中国南京で採取した玄武岩試料の分析結果が芳しくなかったこと,当初予定していなかった横田単成火山群のサンプリング調査を行い,黒岩高原玄武岩と合わせて新たに分析を開始したこと,執筆予定であった神鍋単成火山群に関する論文執筆が遅れていることなどから,論文英文校閲や学術誌への投稿が間に合わず使用予定額に満たなかったことから,次年度へ使用を繰り越すこととなった.
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