研究課題/領域番号 |
17K14420
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
飯野 孝浩 東京農工大学, 科学博物館, 特任助教 (40750493)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルマ望遠鏡 / テラヘルツ / リモートセンシング / 並列計算 |
研究実績の概要 |
ALMA望遠鏡アーカイブデータの悉皆的解析のための環境構築に取り組んだ.まずデータの保持と高速処理のために,Serial Attached SCSI(SAS)を用いた高速かつスケーラブルなデータストレージを導入した.また,大量のデータに対して半自動的に各種較正作業やイメージング処理を実行するソフトウェアを開発した.特に大量のアーカイブデータの較正処理により,典型的な較正処理エラーを集め,その回避策を事前に施すことで,処理の歩留まりを大きく向上させることができた.また,観測天体のドップラーシフトの較正についても自動的に補正されていることが確認できた.特に強い輝線を持つ天体の場合には輝線の情報を意図的にマスクされてしまっているが,このマスクを除去し,最低限度の不要データ除去を行うプロセスも確立した.加え,CPU並列により任意のジョブ数で処理を実行することで処理の高速化を実現した. タイタンや海王星といった主要なターゲット天体についてイメージングを終了した.ここまでのソフトウェア・ハードウェア環境の開発について,論文が公開されている.処理したデータ中から見出した海王星の高空間分解能データを用い,世界初の対流圏界面の温度マップの観測的導出に成功し,成層圏や対流圏下部に感度を持つ他の波長域に比べ,全球での輝度温度変化が非常に小さく,2-3 K以下に抑制されていることを見出した.本研究に関連して,2本の論文が公開もしくは印刷中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のひとつの技術的な山場であったアーカイブデータの自動処理による悉皆的解析に道筋をつけられたこと,そしてサイエンスとして意味のあるデータを多数見いだせたこと,そしてそれらを論文としてアウトプットできていることが重要である.ここまでで出版済みと印刷中の論文それぞれ2本,1本につながっており,さらに投稿直前・投稿中の論文が1本ずつあり,順調に結果のアウトプットにつながっていると言える.さらに,並列処理や自動処理プロセスの構築といった工学的側面と,大気化学・大気構造の理解につなげる理学的側面の双方において論文が出版されており,バランスの取れた研究と考えている.さらに次年度以降につながる有望なサイエンスターゲットも見つかっており,太陽系内天体のリモートセンシングを電波天文学・大気化学・リモートセンシング・情報科学にまたがる学際的な分野としてさらに発展させていく素地を構築しつつある.
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今後の研究の推進方策 |
海王星とタイタンを主なターゲットとして,解析コードの開発と物理量の導出,それによる大気化学の解明を目指していく. 海王星については,アーカイブデータを用い,成層圏中のシアン化水素分子の空間分布の導出に成功した.全球の各点について輻射輸送を行い,柱密度や高度分布,存在比の再尤解を探索するコードを開発・適用した結果,赤道においてシアン化水素の柱密度が高いことを見出した.このような成層圏分子の非一様性は地球においても見出されており,地球との比較から海王星の成層圏大気化学を議論する論文を執筆する. 地球以上にバリエーションに富むタイタンの大気化学の理解には,同位体比を用いた反応パスのトレースと分子の生成・消滅の直接観測の2つが重要であるが,本研究ではその双方についてALMAアーカイブデータの悉皆的解析から成果を生み出しつつある.具体的には未報告の同位体分子の検出と,主要な窒素化合物・炭化水素化合物の時空間変動の導出に成功しており,タイタンに特化した輻射輸送計算コードの開発・適用により,分子の存在量と高度分布といった物理量の導出に取り組んでいく.
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次年度使用額が生じた理由 |
計算機のアップグレードにより,GPGPUを用いた高速並列計算に取り組む.論文出版に際しての出版費や英文校閲費を計上している.また,天文学会や日本惑星科学連合大会などの大規模学会への参加を予定している.
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