研究課題/領域番号 |
17K14421
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
羽場 麻希子 東京工業大学, 理学院, 助教 (30598438)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 隕石ジルコン / 消滅核種 / プルトニウム-244 / 宇宙線照射年代 / 高精度U-Pb年代分析 / (U-Th)/He年代 |
研究実績の概要 |
244Pu(半減期8100 万年)は、消滅核種であり、現在の太陽系には存在しない。しかし、244Puの一部が自発核分裂を起こし130-136Xeを生じるため、地球の古いジルコン(41-42億年)では244Pu起源のXeの存在が確認されている。本研究では、さらに古い隕石中のジルコン(45.2-45.6億年)に着目し、太陽系形成時の244Pu/238U比を決定することを試みた。 本年度は、石鉄隕石メソシデライトであるNWA 8741を酸で溶解した残渣からジルコン(70-200 μm)を分離した。これらのジルコンを用いてID-TIMS法による高精度U-Pb年代分析、LA-ICPMSを用いた微量元素濃度分析、希ガス質量分析計による全希ガス同位体分析を行った。 まず、高精度U-Pb年代分析による6粒のジルコンの重み付き平均年代は4525.0±1.3 Maであった。11粒のジルコンから得られたウラン及びトリウムの平均濃度は、1.1 ± 0.3 ppm、0.08 ± 0.06 ppmであった。希ガス分析に関して、本研究では世界で初めて全希ガス同位体を隕石ジルコンから検出することに成功した。特に81Kr(半減期0.23 Myrs)の検出は、地球ジルコンおよび隕石ジルコンにおいて初めての事例である。この結果、(U-Th)/He年代と81Kr-Kr宇宙線照射年代の見積りがジルコンのみから可能となり、それぞれ2.5-2.6 Ga、37 Maであった。244Puに関しては、244Pu起源136Xe濃度から見積もったジルコン形成時の244Pu濃度は0.020 ± 0.002 ppmであった。ジルコンの形成年代は4525.0±1.3 Maであるから、太陽系形成時の値を計算すると、244Pu/238U比は0.012 ± 0.004であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
隕石中のジルコンはこれまでわずかにしか見つかっていない。そのため、計画の段階では隕石ジルコンをXe同位体分析に特化した質量分析計(RELAX)を用いて分析することを想定していた。RELAXはXe同位体を高感度で測定できるため、ジルコン一粒での分析が可能であるが、それ以外の希ガス(He, Ne, Ar, Kr)を分析することはできない。そのため、RELAXを使用した場合は、Xe以外の希ガスから得られる情報を取り出すことができない。本研究では、隕石を酸で溶解し、難溶性鉱物であるジルコンの化学的特徴を考慮することによって、ジルコンに濃縮したフラクションを作ることに成功した。これにより、分析対象であるジルコンを数100粒分離し分析に用いることが可能になった。実際に分離したジルコン試料(150粒)はすでに希ガス質量分析計を用いて測定しており、その結果、全希ガス同位体を隕石ジルコンから取り出すことに世界で初めて成功した。得られたデータから、本課題の目的である太陽系形成時における244Puの存在度を決定することができた。さらに、Xe以外の希ガス同位体からは、(U-Th)/He年代、81Kr-Kr宇宙線照射年代を得ることができた。隕石ジルコンから(U-Th)/He年代、81Kr-Kr宇宙線照射年代、244Pu初生存在度を決定したのは本研究が世界で初めてである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては、本年度得られた太陽系形成時の244Pu/238U比の確度および精度を向上させるための研究を行う。得られた244Pu/238U比はジルコンから得られた値としては過去の研究を比べ精度は向上しているが、今後244Puを生成した元素合成モデルの評価や元素合成から太陽系形成までの期間を見積もる上では、より精度の良い値が求められる。本研究で得られた244Pu/238U比の誤差は244Pu量を計算する上で必要なウラン濃度の誤差が大きく影響している。そこで今後の研究では、用いているジルコンのウラン濃度をより精度良く測定するため、より多くのジルコンについての微量元素濃度分析を行う。また、本年度は石鉄隕石のジルコンから244Pu/238U比を見積もったが、太陽系形成時の244Pu/238U比を検証するため、異なる隕石である玄武岩質ユークライト中のジルコンを用いて分析を行う。玄武岩質ユークライトのジルコンに関しては、すでに高精度U-Pb年代、微量元素濃度が報告されているため、今後の研究では希ガス同位体分析を行い、本年度の研究と同様に、244Pu/238U比の見積り、および(U-Th)/He年代、81Kr-Kr宇宙線照射年代を得ることを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は従来予定していたXeの分析だけでなくXeを含めた全ての希ガス同位体を検出することを目的としたために、分析に用いる隕石ジルコンの分離法の改良を行った。そのため分析試料の準備が予定より遅れ、海外で分析する予定だった希ガス同位体分析の日程が次年度にずれ込んだ。第一回の希ガス分析(海外)は2018年4月に既に行った。第一回の分析によって、隕石ジルコンの全希ガス同位体分析法が確立したため、次年度は今年度分析するはずであった複数の隕石から分離したジルコンについて海外での分析(複数回)を予定している。また、研究実績に記述したように、2018年4月の分析によって本研究課題の目標である太陽系形成時の244Pu存在度に関して初めてデータを得ることができた。この結果は惑星科学だけでなく天体物理学における元素合成モデルの構築にとって非常に重要なデータである。この点に関して、元素合成モデルの研究で顕著な実績のある研究者と議論を行い、共同研究を行う予定である。そのため、複数回の海外出張を予定している。そして得られた結果について国際学会(現段階で3つの国際学会で発表予定)での発表および論文発表に向けた共同研究者との議論を予定している。
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